兵庫県立がんセンター建替整備に係る基本及び実施設計業務企画提案競技の結果

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兵庫県立がんセンター建替整備に係る基本及び実施設計業務を行う者として、次の者を特定した。

株式会社山下設計関西支社

総評

本件は、がん医療を取り巻く現状と課題、現病院における建物状況、運営・経営状況及び医療提供体制の現状と課題を踏まえ、がん医療の均てん化が進む中でも、県内がん医療のリーディングホスピタルとして最先端の高度ながん医療を提供するとともに、がん患者の最後の砦となる専門病院として機能し続けるため、新病院に建替整備するものである。
本企画提案競技では、がん医療の均てん化が進む中で県立のがん専門病院が担う役割・存在意義を十分に理解し、その実現に向けた提案の方向性、実現性及び独創性が審査の重要なポイントとなった。審査に当たっては、特に次の3つの視点に留意した。

  • ① 最先端の高度ながん医療を提供し続けるとともに、基本計画等で示された基本方針・整備方針を実現させる方策が提案されているか。特に「患者本位の病院」や「最先端のがん医療に対応」といった整備方針に十分配慮されているか。
  • ② 建築は「場所」との関係性が極めて重要であることを踏まえ、計画地の立地や周辺環境等を含めた「地域性」がどのように意識され、提案の中でどう具現化されているか。加えて、現病院敷地内での建替整備という本件の特性を踏まえた土地利用等が提案されているか。
  • ③ 効率的な病院運営、医療制度や医療技術の変化に対応できる可変性、省エネルギー化や建物の長寿命化によるランニングコストの抑制を1つの整備方針としている。多額の投資により建設される公共施設として、限られた予算と時間のなかで質を確保することが社会的に強く求められることを踏まえ、これらの要請に応える技術的判断がなされているか。本企画提案競技には 11 者から参加表明書が提出されたが、いずれも本企画提案競技の趣旨をよく理解され、真摯で意欲的な取組姿勢が感じられるものであった。本企画提案競技に向けた参加者各位の情熱と惜しまない努力に対し、心から敬意を表したい。

2次審査に進んだ5者からは、豊富な実績と高度な技術力に裏打ちされた創造的で魅力的な内容の技術提案書が提出され、いずれも十分な業務執行能力を有すると判断された。

選評

最優秀に特定した「株式会社山下設計関西支社」の提案は、特に次のような点が高く評価された。

  • 見守りを重視したH型病棟、部門間動線のコンパクト化による患者負担軽減、患者テラスや既存緑地による癒しの空間など、がん患者及び家族の精神的負担に配慮した「患者本位の病院」の実現が期待できること。
  • 拡張を見据えたオープンエンドの廊下「センターストリート」や、増床が予想される部門と拡張用地との適切な位置関係など、将来の拡張性を中心とした「最先端のがん医療」に十分配慮されていること。
  • 拡張用地を含めた建設エリアを最大化する明快なアプローチ計画、公園緑地や土地の高低差を活かした土地利用、安全な建替ステップなど、計画地の特性に即していること。
  • コスト面においても十分シミュレーションされ、リニアックやエネルギーセンターの別棟化によるコンパクトな施設計画、環境配慮・環境負荷低減の手法など、堅実で合理的な提案であること。
  • 提案全体の独創性と実現性のバランスが取れており、ヒアリングにおいても提案意図を十分に伝達し、卓越した提案力を感じさせた。本件に取組むに当たって、提案者の資質、能力ともに優れており、基本及び実施設計を行う者として県のパートナーに相応しいと評価した。

次点となった「株式会社日建設計大阪オフィス」の提案は、求められた機能を高いレベルで具現化しており、独創的な病棟計画や工夫された拡張余地の確保、動線計画について高く評価された。その一方、実績に裏打ちされた病棟形状の提案であったものの、将来の可変性や不整形な空間の効率利用などの面を懸念する意見があり、総合的な評価において僅差で次点となった。

なお、2次審査における他3者の提案についても、その専門的技術的内容において最優秀や次点の提案に比して大きく劣る点はないものの、以下のような問題点が指摘され、高評価が得られなかった。

  • 提案者1 開放的な建物南側への提案が乏しく、計画地の特性を活かしきれていない点など。
  • 提案者2 ライフサイクルコスト縮減の提案において、具体性や整合性が欠ける点など。
  • 提案者3 西側に主出入口・ロータリーを配置することの積極的な理由が見出せない点など。

最後に、今後の設計業務に当たっては、受託候補者と県が良きパートナーシップを築き、提案内容の具体化を図るとともに、新たな課題にも柔軟に対応して、県民に最先端のがん医療を提供するがん医療拠点が整備されることを期待したい。

その際、新病院の設計だけでなく、現病院敷地内での建替整備であることを踏まえた総合的な調整に積極的に関与し、円滑な事業推進が図られるよう、特に要望しておく。

出所:兵庫県「【プロポ結果】兵庫県立がんセンター建替整備に係る基本及び実施設計業務企画提案競技の結果について」より抜粋