日本医科大学は、多摩永山病院の移転・建替え計画の実現に向けて多摩市と協議を続けてきたが、双方の財政状態、社会経済情勢の変化等により計画を断念すると公表した。総事業費は、令和5年12月時点で約280億円となり、令和2年12月時点の試算額約154億円と比較すると約126億円も上昇していた(約1.8倍)。
日本医大は、新病院を建設した場合、以下の要因が病院経営にとって後々まで大きな負担となるとし、これらの新たな課題に対応するためには、最低でも近隣四市あるいはその他の自治体と同等程度の財政支援が必要不可欠であるとしている。
- アフターコロナにおける感染対策
- 医療DXの整備など
- エネルギー価格の上昇
- 医療の高度化に伴う医療設備・機器等の高額化
- 建物の減価償却 など
近隣の公的病院への支援金額(単位:百万円)
南多摩医療圏の他市では、地元の基幹病院に対し土地・建物への支援に加え運営等に対しても約7億円~約16億円(年間)規模の支援を行っていることから、本医科大学は新病院を建設した際には、同等程度以上の支援を市に求めていた。
年度 | 町田市 町田市民病院 | 日野市 日野市立病院 | 稲城市 稲城市立病院 | 八王子市 東京医大 八王子医療C | 八王子市 東海大 八王子病院 | 多摩市 日医大多摩 永山病院 | 東京都 都立多摩南部地域病院 |
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H29 | 1,100 | 1,070 | 702 | 350 | 350 | 0 | 740 |
H30 | 1,100 | 1,000 | 702 | 350 | 350 | 0 | 711 |
R1 | 1,098 | 1,000 | 703 | 350 | 350 | 0 | 787 |
R2 | 1,571 | 1,214 | 782 | 350 | 350 | 36 | 778 |
R3 | 1,062 | 1,030 | 703 | 356 | 354 | 15 | 868 |
移転・建替えに伴う支援の要望(7つの要望事項)
日本医科大学側が多摩市に求めていた要望は以下の通り。
- 2026年度の新病院開院を努力目標とし、最速のスケジュールに沿った諸調査・工事等の実施及び協力
- 新病院の建設に滞りなく着工するための旧多摩ニュータウン事業本部跡地に係る一切の造成・平坦な土地への整備等の負担(測量・地盤調査、土砂災害警戒区域解除工事を除く20億円相当)
- 旧多摩ニュータウン事業本部跡地の無償貸与
- 新病院の建設にあたり、建設費に対する財政的支援(補助金)
- 旧多摩ニュータウン事業本部敷地の約50%が斜面地であり、駐車場整備が困難であるため、隔地駐車場(附置義務駐車場台数の半数)確保に関する支援及び協力
- 永山駅から新病院への患者動線整備(西側都道からのエレベーター、エスカレーター設置等のバリアフリー動線等)、また、公共交通機関(バス等)の新病院敷地内への引き込みに関する支援及び協力
- 新病院建設を一つの契機とし、現多摩永山病院跡地の利活用を含めた諏訪・永山まちづくり計画の着実な進展
これに対し、多摩市は「多摩市の財政状況に鑑みて、要望事項の包括的な受入れは出来ない」との回答に至ったとした。
多摩市は、平成20年以降、学校法人日本医科大学(以下「日医大」)との間で、主として日本医科大学多摩永山病院(以下「多摩永山病院」)の建物の老朽化対策として、新病院建設に向けた移転・建替えの協議を行ってきました。
しかしながら、日医大においては、昨今の建設業界、医療業界を取り巻く社会環境や経済情勢などの影響から、新病院移転・建替え資金の調達の目処が全く立たないことに加え、多摩永山病院単独の収支が厳しい状況にあることから、市内での新病院建設に向けた、移転・建替え計画の検討を終了することとなりました。
熟慮のうえとは言え、この間十数年に渡って多摩永山病院の建替えに向けて協議を積み重ねてきたことを考えると、私としても痛恨の極みです。
双方の公表状況を見ると、日本医科大学としては多摩市の支援が十分でなかったことへの指摘(要望書内の1番目が『努力目標、最速、協力』との表現)が見られる一方、多摩市長のコメントには「日医大側による検討終了となり痛恨の極み」とあり、若干のすれ違いがあったことも推察される。
近隣(4㎞圏内)には東京都立多摩南部地域病院(287床、1993年3月竣工)があり、東京都としても金銭面での運営支援は難しい状況。
多摩市の歳入はコロナ以後、国庫支出金の増額もあり575億円(R1)から700億円(R4)へ増加している。
日本医科大学は、現病院の診療は継続しながら、多摩市民を含めた南多摩医療圏の地域医療のために、今後の方向性を探っていくこととしているが、単独整備が厳しい昨今、引き続き自治体に加え、地域関連企業を巻き込んだ施設整備の方向も必要となる予想。
同地域のように、東京や神奈川郊外には大学病院が多いが、生き残りをかけた移転・再整備は今後も続く。
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