長野県駒ケ根市の総合病院である昭和伊南総合病院は、新病院の建設候補地を選定し公表した。駒ヶ根市内の国道153号伊南バイパス辻沢信号機東側の農地(約36,000㎡)。
同院では、令和2年8月に新病院建設基本構想を策定し、現在、新病院建設基本計画の策定に向けた準備を進めている。
新病院の概要
新病院の診療科構成は、現行と同様の 18 科を基本とし、新病院の役割・機能を踏まえた上で、他医療機関等との連携も含め引き続き基本計画で検討する。
救急医療・循環器疾患への対応
- 新病院では、伊南地域の救急医療を堅持するため、“救急センター”及び重症病棟(HCU/ハイケアユニット)を整備し、24 時間 365 日の二次救急に対応
- 特に、緊急性の高い循環器疾患(心筋梗塞、脳卒中等)については三次救急への対応を積極的に行うともに、地域需要の高い外傷等の整形外科疾患や小児に対する救急医療の強化・充実を目指す
- 地域の開業医や救命救急センターである伊那中央病院と連携を強化するとともに、ヘリポートを活用した信州大学との連携など、上伊那医療圏の救急医療の質の向上に努める
がん医療への対応
- 新病院では、伊南地域の中核病院として、予防・早期発見から集学的治療まで、総合的ながん医療体制の強化を図る
- 今後、検診から緩和ケアまで様々なステージの患者を幅広く受入 れるため、“健診センター”のさらなる充実や、開業医等に対する在宅看取り対応に必要な支援等を実施
- 発生頻度の高い消化器、呼吸器、乳房及び泌尿器等のがんへの対応を行うとともに、口腔、 皮膚及び眼等の希少がんについては伊那中央病院や信州大学医学部附属病院等の地域がん診療連携拠点病院と連携を取るなど、限られた医療資源の中で効率的に上伊那医療圏のがん医療提供体制の構築に努める
- 上伊那医療圏で唯一実施している血液のがんへの対応を継続するとともに、当院の強みである“消化器病センター”の施設・設備や人員体制等を充実
リハビリテーション医療への対応
- 上伊那医療圏におけるリハビリテーション医療の中核として、地域の医療機関や介護サービス事業者等と連携をとり、地域内の一貫したリハビリテーション体制を構築
- 急性期においては発症早期から各疾患に応じたリハビリテーションの介入を行うことで機能の早期回復を支援し、回復期においてはリハビリテーションによるADL*向上・機能回復を行うことで患者の早期の在宅復帰・社会復帰を支援
- 急性期・回復期のみではなく、訪問リハビリテーションによる在宅での機能維持に努めるなど、住民が住み慣れた地域で最後まで安心して生活できるように総合的なリハビリテーションを提供
想定病床規模は220 床程度
- 現病院は許可病床数 300 床、現在稼働病床数 239 床で運営中
- 新病院の病床数については、現在の稼働状況や今後の地域における入院患者数予想を踏まえた上で、当院の 2025 年度の将来推計入院患者数を試算すると 1 日平均 191.3 人となり、目標の病棟稼働率を 85.0%~90.0%に設定した場合、必要病床数は 213~225 床と試算
- 基本構想においては、あり方検討委員会で提言されている病床数の最小値をとり、想定病床規模を 220 床程度に設定
- 今後、地域需要や医師の確保状況を踏まえた上で、引き続き基本計画で詳細を検討
施設規模は延床面積18,700 ㎡程度
近年整備された同種同規模の公立病院(政令指定都市を除く市町村で 180 床~300 床の一般病床を持つ施設)を参考に1 床当たり 85 ㎡を目安とし、整備後の病院本体の延床面積を 18,700 ㎡程度と想定。
開院年度 | 所在地 | 施設名 | 病床数 | 延床面積 | 面積/床 |
---|---|---|---|---|---|
2019年8月 | 島根県 | 大田市立病院 | 229床 | 18,958㎡ | 82.8㎡ |
2019年5月 | 山口県 | 光市立光総合病院 | 210床 | 18,463.64㎡ | 87.9㎡ |
2019年1月 | 三重県 | 伊勢市立総合病院 | 300床 | 24,807㎡ | 82.7㎡ |
2016年4月 | 石川県 | 加賀市医療センター | 300床 | 26,628.55㎡ | 88.8㎡ |
2016年11月 | 岐阜県 | 市立恵那病院 | 199床 | 16,498㎡ | 82.9㎡ |
2015年5月 | 長野県 | 岡谷市民病院 | 295床 | 24,158㎡ | 81.9㎡ |
平均値 | 84.5㎡ |
整備手法は4つから検討
従来方式(設計・施工分離発注)
- 基本設計、実施設計、施工を別途に発注する方式。設計図所 に基 づき入札で施工者の選定を行う。
- メリット…設計、施工をそれぞれ専門業者が行うため性能の確保の観点から安定した整備手法。
- デメリット…設計業者と施工者が異なることにより、施工技術が設計に反映させ辛い
DB方式(基本設計先行型)
- 設計と施工を一括して建設会社に発注する方式。基本設計から一括発注する方法と、実施設計から一括発注する方法の 2 種類がある。
- メリット…基本設計を従来どおり実施することにより施主の要望が設計図に反映されやすい。
- デメリット…設計を基本設計と実施設計で異なる事業者が行うこととなるため、基本設計の意図を反映しづらくなる可能性がある。
DB方式(基本設計一体型)
- メリット…設計初期から施工業者が関わることで施工技術を反映した合理的な設計が可能。
- デメリット…施工業者が実施設計から施工まで一貫して行うため、客観性が欠如する可能性がある。設計業務を行う以前の契約となり、詳細な仕様がないため、施主の要望を反映した選定が難しい。
ECI 方式
- 設計業者による基本設計後に、実施設計と施工を一括で施工業者に発注する方式。実施設計から施工業者が参画し、実施設計支援を行った際に施工請負契約を行う。
- メリット…設計時に施工技術による改善提案などを取り入れ、施工時にも設計業者が関わるため、施工管理機能が働く。設計業者と施工業者の互いの長所を生かした計画が可能。
- デメリット…病院建設事業における先行事例が少ない。設計に関わる関係者が多くなるため、内容の協議・ 調整に時間を要する。
PFI 方式
- 基本設計、実施設計、施工及び維持管理まで含めて一括で発注する方式。事業について必要な資金調達も事業者が担う。
- メリット…開院後の維持管理まで見越した施設設計が可能となり、運営費用まで含めたコストの低減が可能。
- デメリット…事業範囲の検討や要求水準書の作成であること、PFI 法により事業者選定手続きを行うため、約1年半の準備期間を要する。
整備事業費(概算見込み)は84 億円程度(45 万円/㎡)
- 想定病床規模 220 床程度の病院建設費を、近年の他事例を参考にして機械的に算出すると、病院本体の建設費は 84 億円程度(45 万円/㎡)
- このほか設計、医療機器、付属設備、外構・周辺整備等の費用や、建設地によっては用地取得費や造成費等が別に必要
- 今後策定する基本計画、基本設計等の各段階において総事業費の精査・縮減に努め、経営計画において適正な範囲内の負担となるよう慎重に検討
発注年度 | 所在地 | 施設名 | 病床数 | 平米単価 |
---|---|---|---|---|
2018 年 | 愛媛県 | 愛媛県新居浜病院 | 240 床 | 491.5 千円/㎡ |
2017 年 | 島根県 | 大田市立病院 | 229 床 | 502.5 千円/㎡ |
2017 年 | 山口県 | 光市立光総合病院 | 210 床 | 390.0 千円/㎡ |
2016 年 | 三重県 | 伊勢市立総合病院 | 300 床 | 506.1 千円/㎡ |
2016 年 | 岡山県 | 倉敷市立市民病院 | 198 床 | 530.4 千円/㎡ |
2015 年 | 島根県 | 雲南市立病院 | 281 床 | 323.6 千円/㎡ |
2015 年 | 長崎県 | 市立大村市民病院 | 216 床 | 374.0 千円/㎡ |
平均値 | 445.4 千円/㎡ |
経営形態は現状維持
- 現在の経営形態は地方公営企業法の全部を適用する公営企業(公立病院)
- 経営形態を変更しようとする場合には、選択肢として①地方独立行政法人化、②指定管理者制度の導入による公設民営化、③民間移譲
- 経営形態を変更する方法によって改善しようとする課題は現時点では見当たらないことや、医師、看護師をはじめ医療従事者の数が少ない上伊那医療圏における人材確保の課題などを踏まえ、現在の経営形態を継続することが当院の経営にとって最適であると判断
事業スケジュール
2022年度中に基本計画を作成、以降、基本計画~工事を2024年度ごろまでに実施予定。
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