浦和美園の順天堂大学付属病院 基本設計へ

(仮称)順天堂大学医学部附属埼玉国際先進医療センター
(仮称)順天堂大学医学部附属埼玉国際先進医療センター

浦和美園地区に誘致する順天堂大学付属病院について、基本設計に取りかかる時期が埼玉県の医療審議会で確認された。

2023年1月までに基本設計に取りかかり2027年11月に開設予定。

本計画では陽子線によるがん治療が行われる予定とされている。陽子線治療を行う施設は全国にあるが、人口が集中している関東地域では千葉「国立がん研究センター東病院」と神奈川「湘南鎌倉総合病院」の2施設のみであった。

(仮称)順天堂大学医学部附属埼玉国際先進医療センター

これまでのスケジュール(令和4年1月17日時点)

基本計画(設計者選定含む)~令和5年3月
基本設計令和5年4月~令和6年6月
実施設計令和6年7月~令和8年3月
建設工事令和8年4月~令和1 0年1 2月
開院令和1 1年4月(4 0 0床)
令和1 2年3月(8 0 0床:フルオープン)

医療従事者数は1,600人規模

平成30年時点での想定医療従事者数は医師250名、看護師900名、コメディカル160名など総勢1,400人規模であったが、令和4年時点では医師がプラス50名、看護師マイナス100名、コメディカルプラス200名など大幅な増減により総勢1,583名となっている。

医師については大学内から集めるにしても、看護師については雇用条件によっては近隣の病院・クリニック等の人材流動性を高める可能性があり、地域の病院経営者にとっては留意すべき点かもしれない。

医師3 0 0名( 2 5 0名)
看護師8 0 0名(9 0 0名)
その他コメディカル3 6 6名(1 6 0名)
事務1 1 7名( 9 0名)
( )内は平成3 0年3月の変更計画時点の数値

整備計画変更の理由

浦和美園の順天堂大学付属病院の計画が遅れている理由としては、新型コロナによる経営環境の悪化とこれに伴う医療環境の大きな変化が挙げられている。

  • 平成3 0年(2 0 1 8年)3月、新病院の整備計画変更申請書を提出
  • その後、行政、関係機関により患者の交通アクセス改善に大きく影響する渋滞緩和の社会実験や自動運転バスの検証を実施
  • 学内の医師を含めたプロジェクトチームを設置して医療機能について検討
  • 令和元年(2 0 1 9年)1 0月、計画推進のため医療コンサルタントを選定し、基本構想の共同検討作業に着手
  • 新興感染症(COVID-19)の出現により経営環境が悪化し、計画通りの進展が困難となり遅れが発生
  • 医療を取り巻く環境が一変したことから、経営の立て直し及びコロナ後の新たな病院機能の検討など、計画を一から見直しをせざるを得ない状況になり、当初の進展より大幅な遅れが発生。

改めて順天堂大学付属病院の決意

  • 埼玉県全域に対する医療の貢献、将来にわたり国内、国外に誇ることができるような先進的な医療、優秀な医師の育成、治験や研究に寄与する本学の新たなるキャンパスとして整備していく
  • 感染症に対する医療体制の脆弱さを克服し、県民、市民に頼りにされる感染症に強い病院を整備するとともに、現在、順天堂大学が取り組んでいる様々な企業との先進的な共同研究の成果を浦和美園の新病院に取り入れ、順天堂の持つ人材、病院運営経験を最大限活用して、患者さんだけでなく行政の要求に応えられる医療体制を構築する
  • さいたま市を中心とした地域住民の生活に貢献すべく、医療連携はもとよりスポーツ健康医科学を進める本学の取り組みを美園の地で展開する
  • 公募条件である医師派遣については、この病院とキャンパスが国内、国外の学生、研修医、専門医、研究者が集う魅力ある拠点として、順天堂の理念である不断前進の精神で取り組んで行く

順天堂大学付属病院の全体像 病院整備基本計画

(1) 病院の名称

順天堂大学医学部附属埼玉国際先進医療センター(仮称)

(2) 開設者

学校法人順天堂

(3) 所在地

さいたま市緑区・岩槻区3区画約7.3ha

(4) 開設計画の具体的内容

①開設病院の基本方針

  • 未来型の基幹病院を建設します
  • 次世代型スマートシティの医療・ヘルスケアに参画し、医療関連産業も周辺に集まる可能性を模索します
  • 常時の感染対策はもとより、パンデミックに際しても地域の保健行政に即応可能な施設・設備を備えます
  • 最先端の診断・治療技術を提供します
  • 次世代ヘルスケアシステムを構築します
  • AIホスピタルの実現に向けた高度診断・治療ネットワークシステムを構築します
  • 全方位的な臨床医学とスポーツやリハビリを融合させた予防・社会医学拠点の形成インバウンド再開後の海外患者の受け入れと国際的な医療・教育・研究施設を目指します
  • 環境問題を考慮した先進的な建築施設計画を立案し、国際的な外部評価でも検証を行います

以上の基本方針のもと、埼玉県の医療受給バランスの改善と医療従事者教育とを両立させるとともに、埼玉県、さいたま市と協力して地域医療に密着し東日本全体を俯鰍できる高機能な医療機関を目指します。

また、年齢に関係なく国内外の幅広い有能な人材が集まる大学院、研究施設を併設し、埼玉県で不足する医師の育成・派遣が可能となる施設・機能の充実を図っていきます。

②開設病院における医療機能

地域住民・医療施設の要請に応えるべく以下の医療機能の整備に努めます。

  • 救命救急センター機能…脳卒中、心疾患、外傷などの救急患者の受入体制を整備し、迅速、適切に対応するため救命救急センター機能の充実を図ります。(救命救急センター病床20~25床)
  • 小児救急機能…小児救急拠点病院として夜間救急を含む小児救急患者に適切な対応をします
  • 周産期医療…高齢出産の増加や周辺産科病院の減少を踏まえ、周産期母子医療センターを整備し、周産期救急やハイリスク分娩などに適切に対応します。NICUやLDRの整備に努めます
  • がん対策…地域がん診療連携拠点病院として外科手術、化学療法、放射線治療等がんに対する集学的冶療を提供するとともに、低侵襲治療に取り組みます。チーム医療も推進し、総合病院としてがん以外の合併症を持った患者に対する医療も対応します。放射線診断治療の機能の充実を図ります(さいたま国際陽子線治療研究センター)。最先端治療機器を使ったがんの高度先進治療の提供を検討します。
  • 災害拠点病院としての機能…BCPに基づき免震構造による建物を建設し、自然エネルギーを活用した水・電気等のライフラインを確保するとともに、敷地内に医療関係者の宿舎を整備して災害時における要員の確保を図り、災害拠点病院として県民の安心•安全の確保に努めます。
  • 最先端診断・治療機能…AIを活用したデジタル診断技術、ロボット技術、再生医療(人工組織、人工臓器)、低侵襲治療、地域医療との連携を含めた次世代ヘルスケアシステム等、最先端の医療の導入を検討して、若い医師が集う病院を目指します。
  • 感染症対応機能…コロナに遭遇した経験を糧に、再び新興感染症に直面した時に迅速に対応できるハード・ソフトを備えたパンデミックレディの機能を持つ病院を目指します
  • スポーツと医学の融合知による新たな予防医学機能…前スポーツ庁長官鈴木大地教授が機構長となり新たに発足した「順天堂大学スポーツ健康医科学推進機構」がコアとなり、スポーツと医学の融合による健康寿命の延伸に向けたウェルネスな生活、予防医療を育む環境を整え埼玉県が掲げる「スポーツがつくる活力ある埼玉」と埼玉スタジアムを中心とした浦和美園地区のスポーツ振興に寄与します。また、スポーツ振興に伴う性差を超えた医学的見地が高まっており、主として女性に関わる種々課題をターゲットにして問題解決する拠点整備を進めていきます。
  • 医療スタッフ養成支援機能…教育、研究、臨床研修、専門医や専門看護師の認定、総合医育成、検査技師の訓練、派遣先との調整、生涯を通したスキルアップ、派遣医師の不安解消のための施設、設備機能の強化を図っていきます
  • オープンイノベーション機能…企業と連携して先進的な医療・医学研究が出来る研究施設を病院に併設して、浦和美園を中心とした産学連携拠点づくりを目指します

③病床数

一般病床800床

④診療科目(予定)

総合診療科、循環器内科、消化器内科、呼吸器内科、腎・高血圧内科、膠原病・リウマチ内科、血液内科、糖尿病・内分泌内科、メンタルクリニック、脳神経内科、小児科、消化器外科、呼吸器外科、乳腺外科、心臓血管外科、小児外科、脳神経外科、整形外科、形成外科、皮膚科、泌尿器科、眼科、耳鼻咽喉・頭頸科、放射線診断科、放射線治療科、産婦人科、救急科、麻酔科・ペインクリニック、リハビリテーション科、歯科口腔外科、その他

センター及び拠点病院(予定)

  • 救命救急センター
  • 災害拠点病院
  • エイズ診療拠点病院
  • 周産期母子医療センター
  • 小児救急拠点病院
  • 地域がん診療連携拠点病院
  • さいたま国際陽子線治療研究センター等

⑤施設・・・開設する施設の概要(病院の外、附帯施設も含む。)

  • 病院棟
    鉄骨鉄筋コンクリート造地下1 階/ 地上9階建
    病床面積90,000平米
    免震構造
  • 病棟構成
    病棟、手術室15~20室程度(ハイブリッド手術室を含む)、ICU、NICU、GCU、無菌室、感染症隔離室等
  • 大学・大学院棟延床面積26, 000平米
  • 陽子線治療施設( さいたま国際陽子線治療研究センター) 延床面積5,000平米
  • 立体駐車場延床面積15,600平米

⑥設備・・・整備する設備の名称、用途の概要

  • PET-CT 1 台
  • サイクロトロン装置1 台
  • MRI 1. 5T 1 台
  • MRI 3T 2 台
  • ガンマカメラ2 台
  • リニアック2 台
  • R A L S 1 台
  • サイバーナイフ1 台
  • CT撮影装置(320列、64列) 4 台
  • 血管造影撮影装置3 台
  • 手術支援ロボット「ダビンチ」2 台等

⑦医療従事者等・・・人員計画の概要(医療従事者ごとの人数、医師の派遣計画)

医療従事者数(予定)

  • 医師300名
  • 看護師800名
  • その他コメデイカル366名
  • 事務117名

⑧医師の派遣計画

  • 合計1, 583名
  • 埼玉県と協議を行い、積極的に県内医療機関への医師派遣を行います。

⑨その他の計画… 大学院の設置計画など

医系大学院の設置
  • 大学院医学研究科(埼玉キャンパス)の開設…入学定員60名(総定員240名)
  • 設置予定の主な研究センター
    • さいたま国際陽子線治療研究センター
    • 遺伝子診断・治療開発研究センター
    • 先端ゲノム研究センター
    • 再生医療研究センター
    • 災害医学研究センター他
医療系学部の設置
  • 看護師・保健師養成学科(入学定員160名(予定))
  • リハビリテーション要員養成学科(入学定員120名(予定))
教職員・学生用宿泊施設

教職員(看護師・研修医・医師等)、学生、海外留学生のための寮及び国内外からの研究者の宿泊のための施設

想定される課題も

さいたま市地域医療構想調整会議では病院開設に向け、想定される課題(質問)も指摘されている。特に計画では、高度急性期病院800床であるにもかかわらず、必要看護師数が800人とされており今後も十分な検討が必要と思われる。

○病床について

  • 県の計画によると、さいたま区域では高度急性期、急性期病床が過剰であり、今後回復期、慢性期への転換が必要とされている。このような現状を踏まえ、800床の高度急性期病院をこの区域に新たに開設する必要性をどのように考えていますか。

○医療機能について

  • さいたま保健医療圏には、救命救急センターが3か所あり、周産期母子医療センターが4か所ある。このような現状を踏まえ、救命救急センター、周産期母子医療センターをこの医療圏に新たに開設することの必要性をどのように考えていますか。
  • 新型コロナウイルス感染症について、順天堂大学の患者対応実績をご教示ください。
  • 医師確保困難地域への医師派遣のための具体的方策の記載がないが、実施方法をご教示ください。

○人材について

  • 人員計画について、医師300名、看護師800名、その他コメディカル366名等の合計1,583名の医療従事者を集めるための具体的方策をご教示ください。
  • 高度急性期医療を提供する800床の病院において、看護師800 名が適切な数なのでしょうか。

○スケジュールについて

  • 2030年の開院では、その間地域の医療需要に応えられない状況が継続することになるのではないか。
  • 当初の公募条件では、平成30年3月までの着工であったものが、今回の計画では2030年の開院となっており、整備スケジュールが大幅に遅れている。その理由について、新型コロナウイルス感染症以外の理由も含めてご教示ください。また、今後の整備に向けたスケジュールは、誰がどう管理する予定でしょうか。

埼玉県議会での答弁 23年4月4日追記

埼玉県議会(令和5年2月定例会)にて、知事に対し小島信昭議員(自民)による代表質問 質疑質問・答弁全文が行われた。

出所:埼玉県HP「令和5年2月定例会 代表質問 質疑質問・答弁全文(小島信昭議員)」(掲載日:2023年3月14日)

埼玉県の医療状況

  • 本県の医師不足・病床不足は深刻
  • 人口10万人当たりの医師数は全国最下位、病床数も2025年の人口などを基にした必要数に対し1,763床の不足が見込まれ、公募を行ったが、期間延長しても不足が解消できない状況
  • このような状況を解消する一つの有効な手段は、大学病院の誘致。(仮称)順天堂大学医学部附属埼玉国際先進医療センターは、地域の医療体制の整備だけでなく、県内全体に医師派遣を実現する重要なプロジェクト
  • 当初2021年に開院する計画であったが、幾たびかの計画変更により、現在は2025年着工、2027年11月の開院を目指すとされている

質問1 誘致の実現に向けた進捗状況

  • 昨年11月に環境アセスメントの調査計画書の縦覧が始まったとのことだが、2027年の開院に向けて今後予定されている工程は現在順調に進んでいるのか、工程上に開院を遅らせる可能性のある要素はないか
  • 開院に先行して始まっている同大学からの県内医療機関への医師派遣の状況について

回答 大野元裕知事

誘致の実現に向けた進捗状況について

  • 令和4年4月に医療審議会から求められた内容を踏まえ、大学では令和9年11月の開院を目指し、準備を進めている
  • 整備計画をスケジュールどおり進めるため、県・さいたま市・大学の3者で協議した上で、今後行政協議が必要となる項目を、漏れのないよう抽出、整理してきた
  • 整理した協議項目の内容を踏まえ、大学と県及びさいたま市の関係部署との間で、例えば病院敷地内への車両出入口の場所などにつき順次協議を行っているところ
  • 大学が作成した環境影響評価調査計画書について、令和4年12月の住民説明会を経て、先日開催のさいたま市環境影響評価技術審議会での審議が行われた
  • 大学は令和9年11月の開院に向け、工程に沿って進めていると伺っている

工程上に開院を遅らせる可能性のある要素について

  • 資材費の高騰や部品の調達等、不可抗力と考えられる事態が生じる可能性を除けば、工程そのものに開院を遅らせる要素はない
  • 引き続き、県がしっかりと進捗を把握し、工程どおりの進捗に向け関係者と必要な調整を行っていく

開院に先行して始まっている同大学から県内医療機関への医師派遣の状況について

  • 医師派遣については、県北などの地域で中心的な役割を担う公立・公的病院のうち、医師派遣を希望する県北の5つの病院と大学との間で、県が仲介役となり協議を行ってきた
  • この結果、令和5年2月1日より済生会加須病院に対し、病院が希望していた整形外科の専門医について、1名の派遣が開始された
  • 今後も継続的・計画的に医師確保困難地域に大学から医師が派遣されるよう、現在、大学に対し、令和5年度以降の医師派遣の考え方を尋ねている
  • 大学附属病院誘致の最大の目的でもある医師派遣につき、着実に実施されるよう強く働き掛けていく

質問2 費用負担について

  • 県と順天堂大学は2018年に確認書を取り交わし、整備費用の2分の1以内を負担、用地については無償で貸与することになっているが、知事はこの確認書の効力は一部なくなっているとの認識をさきの県議会で示している
  • 今どのような県の負担が適当だと考えているか
  • 早目に相手方である順天堂大学と意見交換し、負担の規模感を県民にオープンにした上で、誘致活動を行うべきと考える

回答 大野元裕知事

  • 県と大学との間では、平成30年に大学附属病院の整備スケジュールや今後の進め方などを文書で取り交わしている
  • その中で、県の負担にかかる協議に当たっては、大学が将来的に実施する医師派遣の取組を勘案し、用地の無償貸与及び整備費に対する財政支援は予算の範囲内で行い、補助率は2分の1以内とすることを基本的な方針としている
  • 確認書の効力がなくなったのは整備スケジュールの部分であり、この点については新たな整備スケジュールが記された整備計画書を医療審議会での審議を経て県として承認をしている
  • 費用負担の考え方を含む、それ以外の部分については、現時点においてもこの方針に基づき両者が誠実に協議・交渉をしていくもの
  • まずは確認書に従い、費用負担に関する協議・交渉に先立ち、大学が今後の医師派遣について具体的な考え方を示していただく必要があり、現在、令和5年度以降の医師派遣の考え方を照会しているところ
  • 整備費用については飽くまで大学が見積もるものである。本年11月まで実施する基本設計の中で概算額が算出される。今後大学から示される将来的な医師派遣の考え方、これが示され、それが勘案した後に大学と協議・交渉していく

参考資料:「令和3年度第3回さいたま市地域医療構想調整会議