総務省は3月29日、「持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化ガイドライン」(新ガイドライン)を公表した。新ガイドラインは、公立病院において「経営力の強化」「機能強化」「連携強化」を目指す積極的なものとなっている。
本ガイドラインでは、これまでの取り組みとして、①機能分化・連携強化の効果、②経営形態の見直しによる対応の円滑化が指摘され、今後も機能分化と経営形態の見直しを推進していくものである。
①機能分化・連携強化の取組により、新たに基幹病院として整備された公立病院からは、急性期機能が集約され、ICU等が増加するとともに、医師・看護師等の確保が進み、重症患者の受入れ等に効果を発揮した、②経営形態の見直しにより、地方独立行政法人化した公立病院からは、柔軟な人事・給与制度を通じ医師・看護師等の確保が進み、入院患者の受入れやワクチン接種の拡大といった対応の円滑化につながった、などの報告が寄せられている。
総務省「持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化ガイドライン」より
公⽴病院経営強化の必要性
- 公⽴病院は、これまで再編・ネットワーク化、経営形態の⾒直しなどに取り組んできたが、医師・看護師等の不⾜、⼈⼝減少・少⼦⾼齢化に伴う医療需要の変化等により、依然として、持続可能な経営を確保しきれない病院も多いのが実態。
- また、コロナ対応に公⽴病院が中核的な役割を果たし、感染症拡⼤時の対応における公⽴病院の果たす役割の重要性が改めて認識されるとともに、病院間の役割分担の明確化・最適化や医師・看護師等の確保などの取組を平時から進めておく必要性が浮き彫りとなった。
- 今後、医師の時間外労働規制への対応も迫られるなど、さらに厳しい状況が⾒込まれる。
- 持続可能な地域医療提供体制を確保するため、限られた医師・看護師等の医療資源を地域全体で最⼤限効率的に活⽤するという視点を最も重視し、新興感染症の感染拡⼤時等の対応という視点も持って、公⽴病院の経営を強化していくことが重要。
地⽅公共団体における公⽴病院経営強化プランの策定
- 策定時期 令和4年度⼜は令和5年度中に策定
- プランの期間 策定年度⼜はその次年度〜令和9年度を標準
- プランの内容 持続可能な地域医療提供体制を確保するため、地域の実情を踏まえつつ、必要な経営強化の取組を記載
公⽴病院経営強化プランの内容
(1) 役割・機能の最適化と連携の強化
・ 地域医療構想等を踏まえた当該病院の果たすべき役割・機能
・ 地域包括ケアシステムの構築に向けて果たすべき役割・機能
・ 機能分化・連携強化
各公⽴病院の役割・機能を明確化・最適化し、連携を強化。
特に、地域において中核的医療を⾏う基幹病院に急性期機能を集約して医師・看護師等を確保し、基幹病院以外の病院等は回復期機能・初期救急等を担うなど、双⽅の間の役割分担を明確化するとともに、連携を強化することが重要。
精神科医療も考慮すること
これに加え、地域医療構想の対象外とされている精神医療についても、精神障害者の地域移行が求められていること、うつ病・認知症・発達障害・依存症等の患者や高齢化に伴う身体合併症を有する精神障害者の増加等により精神医療のニーズが高まっていることなどを踏まえ、総合的に必要な医療を受けられる体制を構築するため、多様な精神疾患の状態及び特性に応じた精神病床の機能分化、各種保健医療機関や福祉施設等との連携強化、長期入院者の退院支援等を進めることが重要である。
そうした点を踏まえ、精神医療についても、当該病院の果たすべき役割・機能に加え、経営強化プランの対象期間の最終年度における当該公立病院の病床数や、病床数等の見直しを行う場合はその概要を記載する。
特に十分な検討が必要な公立病院について
以下の公立病院については、今般の経営強化プランの策定のタイミングを捉え、地域の実情を踏まえつつ十分な検討を行い、必要な機能分化・連携強化の取組について記載する。
- ア) 新設・建替等を予定する公立病院
- イ) 病床利用率が特に低水準な公立病院(令和元年度まで過去3年間連続して 70%未満)
- ウ) 経営強化プラン対象期間中に経常黒字化する数値目標の設定が著しく困難な公立病院
- エ) 地域医療構想や今般の新型コロナウイルス感染症対応を踏まえ、病院間の役割分担と連携強化を検討することが必要である公立病院
- オ) 医師・看護師等の不足により、必要な医療機能を維持していくことが困難な公立病院
- また、機能分化・連携強化に当たっては、公立病院同士のみならず、公的病院、民間病院等との組合せや、地方自治法(昭和 22 年法律第 67 号)第 252 条の2第1項に規定する連携協約(以下「連携協約」という。)の締結、医療法第70条の5第1項に規定する地域医療連携推進法人制度の活用など経営統合以外の手法も含め、地域の実情に応じた最適な手法を検討し、記載することが望ましい。
数値目標の設定
1) 医療機能に係るもの
地域救急貢献率、手術件数、訪問診療・看護件数、リハビリ件数、地域分娩貢献率 など
2) 医療の質に係るもの
患者満足度、在宅復帰率、クリニカルパス使用率 など
3) 連携の強化等に係るもの
医師派遣等件数、紹介率・逆紹介率 など
4) その他
臨床研修医の受入件数、地域医療研修の受入件数、健康・医療相談件数 など
(2) 医師・看護師等の確保と働き⽅改⾰
・ 医師・看護師等の確保(特に、不採算地区病院等への医師派遣を強化)
・ 医師の働き⽅改⾰への対応
(3) 経営形態の⾒直し
(4) 新興感染症の感染拡⼤時等に備えた平時からの取組
(5) 施設・設備の最適化
・ 施設・設備の適正管理と整備費の抑制
・ デジタル化への対応
- 既存施設の長寿命化等の対策を適切に講じた上で、なお新設・建替等が必要となる場合には、地域医療構想等との整合性を図った当該公立病院の役割・機能や規模等を記載する。
- その際、引き続き建築単価の抑制を図るとともに、整備面積の精査等による整備費の抑制に取り組むべきである。
- また、①CM方式、②設計段階から施工者が関与する方式(ECI方式)、③設計施工一括発注方式などの設計段階等において民間事業者等の専門的な知見を活用する新たな手法を活用することも考えられる。
- CM方式…対象事業のうち工事監督業務等に係る発注関係事務の一部又は全部を民間に委託する方式。監督職員が監督経験の少ない工事において、高度な技術力を要する判断・意思決定を行う必要がある場合に、CMR(Construction Manager の略で、監督職員・請負者以外の第三者として、監督業務の一部を補完する技術者チームを指す。)が適切な助言・提案・資料作成等を実施することで発注者を補完できる効果などが期待される。Construction Management の略。
- ECI方式…設計段階から施工者が関与することで、発注時に詳細仕様の確定が困難な事業に対応する方式。設計段階で種々の代替案の検討が可能となる効果や、施工段階における施工性等の面からの設計変更発生リスクの減少といった効果などが期待される。Early Contractor Involvement の略。
- 設計施工一括方式…構造物の構造形式や主要諸元も含めた設計を、施工と一括して発注する方式。施工者のノウハウを反映した現場条件に適した設計、施工者の固有技術を活用した合理的な設計が可能となる効果や、設計と施工を分離して発注した場合に比べて発注業務が軽減される効果などが期待される。
- あわせて、新興感染症等の感染拡大時に当該病院が果たすべき役割・機能に必要な施設・設備を予め整備しておく必要性についても、新設・建替等に当たっては特に検討が必要である。
- 病院施設・設備の整備に際しては、整備費のみならず供用開始後の維持管理費の抑制を図ることも重要であり、こうした観点から民間事業者のノウハウの活用を図る手法である PPP/PFIを活用することも考えられる。
- その際、同方式の採用に当たっては、あらかじめ公・民間で適切なリスク負担のルールを定めること等に留意する必要がある。
(6) 経営の効率化等
・ 経営指標に係る数値⽬標
外部アドバイザーの活用
- 中小規模の公立病院を含め、民間病院等の経営や診療報酬制度に精通した外部コンサルタントやアドバイザーの活用により、経営改善に成功した事例が多くあることを踏まえ、そのような外部人材の活用についても、積極的に検討すべきである。
- その際、総務省と地方公共団体金融機構の共同事業である経営・財務マネジメント強化事業や、公立病院医療提供体制確保支援事業を活用することも有効である。
都道府県の役割・責任の強化
- 都道府県が、市町村のプラン策定や公⽴病院の施設の新設・建替等にあたり、地域医療構想との整合性等について積極的に助⾔。
- 医療資源が⽐較的充実した都道府県⽴病院等が、中⼩規模の公⽴病院等との連携・⽀援を強化していくことが重要。
経営強化プランの策定・点検・評価・公表
- 病院事業担当部局だけでなく、企画・財政担当部局や医療政策担当部局など関係部局が連携して策定。関係者と丁寧に意⾒交換するとともに、策定段階から議会、住⺠に適切に説明。
- 概ね年1回以上点検・評価を⾏い、その結果を公表するとともに、必要に応じ、プランを改定。
財政措置
- 機能分化・連携強化に伴う施設整備等に係る病院事業債(特別分)や医師派遣に係る特別交付税措置を拡充。
これまでの公立病院改革の取組状況
これまでの公⽴病院改⾰における再編・ネットワーク化の実績
項目 | H20〜H26実績 | H27〜R2実績 | 合計 | 【参考】 実施中 (枠組合意) |
---|---|---|---|---|
再編・ネットワーク化関連病院数 | 126公⽴病院 | 67公⽴病院 | 193公⽴病院 | 60公⽴病院 |
公⽴病院数及び病床数の⽐較
項目 | H14 (ピーク時) | H20 | R2 | 増減率 (H20→R2) | 増減率 (H14→R2) |
---|---|---|---|---|---|
病院数 | 1,007 | 943 | 853 | ▲9.5% | ▲15.3% |
病床数 | 239,921 | 228,280 | 203,882 | ▲10.7% | ▲15.0% |
これまでの公立病院改革の取組状況(経営形態の見直し①)
経営形態の見直しを見ると、地方公営企業法の全部適用が全体の45%と大半を占めている。また、独立行政法人は11%、指定管理者が10%程度となっている。
病床規模で見ると、500床以上の大病院では95施設中の一部適用は20施設ほどだが、100床未満病院だと半数以上が一部適用(経営形態変更の未着手)となっている。
経営形態別の経営状況
経営形態別の経営状況では、独立行政法人が高く、一部適用が低い結果となっており、経営形態の見直しは一定の経営効果があるとみられる。
経営形態の⾒直しにより効果があったと回答した病院の割合
⾒直し後の経営形態 | 回答数 (a) | 経営の⾃主性効果あり回答数(b) | 経営の⾃主性効果あり(割合(b/a)) | 経営の効率性効果あり回答数(c) | 経営の効率性効果あり(割合(c/a)) |
---|---|---|---|---|---|
全部適⽤ | 70 | 66 | 94.3% | 64 | 91.4% |
地⽅独⽴⾏政法⼈ | 57 | 57 | 100% | 54 | 94.7% |
指定管理者制度 | 35 | 30 | 85.7% | 35 | 100% |
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