関東・東海で相次いだマンション大規模修繕談合から病院経営が学ぶこと

マンション大規模修繕談合から病院経営が学ぶこと
マンション大規模修繕談合から病院経営が学ぶこと

~成熟市場で問われる「調達ガバナンス」~

2025年以降、マンション大規模修繕工事を巡る談合事件が相次いで明らかになりました。

2025年3月、公正取引委員会は首都圏のマンション大規模修繕工事について、独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いで施工会社などへの立入検査を実施しました。その後の調査を経て、2026年6月には施工会社36社、設計コンサルタント2社に対し、排除措置命令および課徴金納付命令を行う方針が報じられています。

さらに2026年7月には、愛知・岐阜・三重の東海3県でも、設計コンサルタント1社と施工会社計28社に対し、公正取引委員会が同様の疑いで立入検査を実施したことが毎日新聞などで報じられました。

個別事案の事実関係は今後の調査や審査で明らかになりますが、病院経営の立場から注目したいのは、「談合があった」という事実だけではありません。その背景にある市場構造や発注者のガバナンスのあり方こそ、多くの示唆を与えてくれます。

成熟市場では「修繕」が主戦場になる

日本では、高度経済成長期からバブル期に建設されたマンションの高経年化が進み、大規模修繕の需要は今後も続くと見込まれています。

一方で、マンションの建替えは区分所有者間の合意形成や資金負担などの課題から容易ではなく、建替え件数は限られています。そのため、多くのマンションでは建替えではなく、大規模修繕を繰り返しながら建物を維持する選択が現実的となっています。

このような市場では、新築工事よりも修繕工事が重要なマーケットとなり、限られた案件を巡る競争は激しくなります。

もちろん、公正取引委員会は現時点で「市場環境が談合の原因」と認定しているわけではありません。しかし、成熟市場では受注競争が厳しくなり、不適切な競争行為が起こるリスクが高まる可能性は、経済学や競争政策の観点からも十分に考えられるところです。

病院も同じ「成熟市場」にある

この構造は病院経営にも重なります。

近年は新病院建設のハードルが高くなり、既存施設の長寿命化や改修、設備更新が経営課題となっています。

例えば、

  • 病院の建替え・増改築
  • 空調・電気・給排水設備の更新
  • 医療機器の更新
  • 電子カルテシステムの更新
  • SPDや物流システムの見直し
  • 給食、清掃、警備などの委託契約

など、多額の投資案件は「新築」よりも「更新・修繕・リプレース」が中心になっています。

つまり病院もまた、成熟市場の中で調達を行う産業なのです。

「専門家だから安心」は本当に十分か

今回の報道では、本来は発注者を支援する立場にある設計コンサルタントも調査対象となりました。

もちろん、現時点では違反の認定前であり、事実関係は今後の手続きで判断されます。

しかし、このことは病院経営にも重要な問いを投げかけています。

病院でも、

「設計事務所に任せているから」
「コンサルタントが選んだから」
「ベンダーが勧めたから」

という理由だけで意思決定が進んでいないでしょうか。

専門家は重要なパートナーですが、発注者としての最終責任は病院側にあります。

発注者のガバナンスが病院経営を守る

病院は医療の専門家集団ですが、建築、設備、ICT、物流など、すべての分野に精通しているわけではありません。だからこそ、専門家の支援を受けながらも、病院自身が調達の主体であり続けることが重要です。

そのためには、少なくとも次の5つの視点を持つ必要があります。

1.支援者の独立性を確認する

設計事務所やコンサルタントが特定企業との利害関係を持っていないか、利益相反の有無を確認することは基本です。

2.仕様書は病院が主体的に決める

業者が作成した仕様書をそのまま採用すると、競争条件そのものが偏る可能性があります。要求水準は病院自身が主体となって整理すべきです。

3.評価基準を事前に明文化する

価格だけでなく、品質、保守性、将来性などを含めた評価基準を事前に定めることで、透明性の高い選定が可能になります。

4.意思決定を記録する

評価表や議事録、選定理由を残すことは、後から説明責任を果たすだけでなく、組織としての意思決定の質を高めます。

5.大型案件ほど第三者の視点を入れる

数億円規模の案件では、一人の専門家や一社だけの意見に依存せず、必要に応じてセカンドオピニオンや外部レビューを活用することも有効です。

「競争させる」だけでは十分ではない

調達では、「複数社から見積もりを取れば公平」と考えられがちです。

しかし、本当に重要なのは、競争が適正に機能する仕組みを整えることです。

市場が成熟し、新規案件が減少する時代ほど、発注者の調達能力とガバナンスが結果を大きく左右します。

これは建設工事だけではありません。

医療機器、システム更新、委託業務など、病院が行うあらゆる契約に共通する経営課題と言えるでしょう。

おわりに

関東に続き東海でも報じられたマンション大規模修繕談合は、建設業界だけの問題として片付けるべきではありません。

成熟した市場では、修繕や更新案件が事業の中心となり、発注者と受注者の情報格差はさらに大きくなります。そのような環境だからこそ、「専門家に任せること」と「専門家に依存すること」は明確に区別しなければなりません。

病院経営においても、建替えや設備更新、ICT投資、業務委託など、今後ますます「更新」を前提とした投資判断が増えていきます。

経営者に求められるのは、価格交渉の巧拙ではなく、公平性と透明性を担保する調達の仕組みを組織として持つことです。

今回の一連の事案は、病院における調達ガバナンスを改めて見直す契機として捉えるべきではないでしょうか。

参考資料