病院経営や建て替え支援を行っていたアイテック株式会社(中央区日本橋)が2022年10月17日に東京地裁へ民事再生法の適用を申請し、同日保全・監督命令を受けた。
これを受け、アイテックなどとの架空・循環取引をしていたとみられる子会社の医療機器卸ジェミックも自己破産を申請。親会社による医療機器販売の強化が資金需要の急激な増大につながった可能性も指摘される。
帝国データバンクによる報道
- アイテック(株)(資本金4億8000万円、中央区日本橋堀留町2-1-3、代表関丈太郎氏)は、10月17日に東京地裁へ民事再生法の適用を申請し、同日保全・監督命令を受けた。
- 当社は、1981年(昭和56年)5月に設立された総合医業コンサルティング業者。病床数300床以上の病院を主対象として、病院新規開設・移転に伴う基本構想や現状調査・分析、建設予定地選定、運営システム策定、付帯設備納入、メンテナンス、経営改善支援、情報システム構築支援など一連のコンサルティングを行っていた。
- 医療インフラが未整備の国に対して、JICA(国際協力機構)の日本政府開発援助(ODA)プロジェクトやJBIC(国際協力銀行)の有償援助プロジェクトも手がけており、イラク復興支援にも関与。2022年4月期には年収入高約161億6445万円を計上していた。
- しかし、海外の政情不安による支出の増加や工事の中断などにより、資金繰りが悪化していたなか、ドル建て決済の案件において為替差損が発生したことで、法的手続きにより再建を目指すこととなった。
- 負債は債権者約216名に対し約132億円。
- スポンサー候補者との間でスポンサー支援に関する基本合意を締結している。
- 10月19日(水)13時30分より「31Builedge霞が関プラザホール」にて債権者説明会を開催する予定。民事再生担当窓口の連絡先は070-7517-0836。
東京商工リサーチによる報道
- 病院の開設に伴う計画や構想など、医業向けの経営コンサルティング会社。設立当初は、独立行政法人国際協力機構(JICA)を通じて、イラクをはじめとする海外の病院建設などのコンサルティングを展開していたが、海外情勢の悪化などから国内向けに主軸を移してきた。
- 国内病院向け案件の増加や、電子カルテシステムの更新支援などにより、2021年4月期には売上高145億4156万円を計上。さらに2022年4月期もコンサルティングが堅調だったほか、「新型コロナウイルス」感染対策に関係する施設の整備なども請け負い、売上高は161億6445万円まで伸長していた。
- しかし、国内の公的医療機関のコンサルティング料の入金は年間1回だったため、回収サイトの長期化などから恒常的に手元資金が不足していた。また、国際的なコンサルティングについても政情不安などの影響を受け、入金の遅れも発生し、厳しい資金繰りが続いていた。
- こうしたなか、ドル建て決済の海外案件で急速な為替変動に伴う大幅な損失が発生。関係先との協議を進め、スポンサー支援を前提とした民事再生手続きを選択した。
倒産の原因は人材流出か事業モデルの劣化か
アイテック社は2015年の創業者逝去以降、経営面での混乱が続き、旧来経営陣の退任等のお家騒動、その後の人事評価制度の設計失策を主因とする「人材流出による事業規模の縮小」に伴い、2020年には本社を中央区日本橋堀留町に移転する中、2021年には創立40周年を迎えたばかりだった。
今後、民事再生による再建を目指すことになるが、当社のメイン取引先(コンサルティング受託先)は国公立が多く、赤字や民事再生企業として業務を継続受託することは困難である可能性もあり、支援会社の名乗り出が注視される。
また、病院経営コンサルティング企業としての名声があったものの、事業モデルの実態としては医療機器の販売がメインであったため、資金枯渇による今後の医療機器仕入れ・販売等は困難であると推測される。
元来、コンサルティング企業はノウハウ提供が主業務であるため、個々人にノウハウが集中し、企業として蓄積・再編することが困難である業務であり、これを打破する経営分析や運営手法のDX(システム)化の構築・導入支援(ソリューションの提供)がスタンダードモデルであるが、アイテック社はこのDXの時代に乗ることが出来なかった。
当面、従業員に対する給料等は保全されると思われるが、人材の流出による事業継続の困難が予想される。
アイテック社は設立に尽力した「(公社)日本医業経営コンサルタント協会」における「認定登録 医業経営コンサルタント法人」であり、かつ当該団体の「継続研修委託団体(認定登録)」でもあった企業が民事再生となったことから、医業経営コンサルタント協会の信頼性も揺らぐ事態となるものである。アイテック社は、2022年6月には「当社代表(公社)日本医業経営コンサルタント協会の副会長就任について」として公表していた。
このほか、アイテック社は「単回医療機器再製造推進協議会(JRSA)」や中国向け「日本医療指南」などのサイトも運営していた。
今後、アイテック社の現経営陣に対する厳しい責任追及が始まるものと思われるが、本件の経営面、特に「医業経営の専門家」が民事再生を行ったという影響は相当大きく、病院経営コンサルティング企業であっても、旧来型の事業モデルが時代にそぐわないことが企業生命の終了に直結する具体的な事例として見ることが出来る。
医療機器販売強化による資金枯渇の可能性も
すでにスポンサー企業もあるとの報道も合わせ、子会社との架空・循環取引を行っていたコンサルティング会社の民事再生がどのように進むのだろうか。改めて報道各社の内容を整理すると、病院コンサルティングに対するフィーの回収サイト長期化、海外事業の為替差損に加え、アイテック本社及び子会社による医療機器の販売を強化していた点に目が向く。アイテック社ウェブサイトの組織図には「MEソリューション本部」として医療機器(ME)販売の部門が設置されている。医療機器の販売部門がアイテック社は国公立病院のコンサルティング案件を多数有する中、子会社や取引先と、どのような手法で医療機器の販売を手掛けていたのか、スポンサー企業による解明が期待される。
11月7日には医療機器卸ジェミックが、東京地裁へ自己破産を申請したことが判明。親会社の総合医業コンサルティングのアイテックによる東京地裁に民事再生法の適用を申請(負債約132億9500万円)に連鎖倒産。負債約110億3400万円は医療機器卸の倒産としては過去最大の見込み。
帝国データバンクによると、「売り上げのほとんどを占めていたアイテックなどとの架空・循環取引が継続できなくなったことで決済資金の調達が困難となり10月31日に事業を停止。」とあり、再建を目指すアイテックへの影響も大きい。また、ジェミックの取引企業への影響も出てくるものと思われる。
【追記】アイテック民事再生の原因は手形操作?
日刊工業新聞(2023年01月12日)によると、手形操作の可能性も指摘されている。再生手続きの行方に注目が集まるとしているが、刑事事件に発展する恐れもある。
- 直近決算である22年4月期の年収入高約161億6445万円で、最終黒字
- 貸借対照表上でも約20億円の資産超過
- 負債総額132億円のうち、大半が金融機関の手形割引残や一般取引先に対する手形債権であることが判明
- 大口の手形債権者となっていたコーケン(東京都港区)や、アイテックの子会社であるジェミック(同中央区)が相次いで連鎖倒産
- 現時点では、アイテックの倒産理由だけでなくこれら連鎖倒産の背景も十分には分かっていないが、何らかの手形操作がなされていたのではないかとの疑念が、業界で取り沙汰されている
また、手形債権者を通じて国内外の国公立病院コンサル案件で医療機器を販売していた場合、医業経営コンサルティング企業としてのモラルが問われる事態となる。(※同社「医療機器の調達・更新・管理支援」というコンサルティングメニューの中で入札支援を行っており、当該入札情報がメーカーやディーラーに対し優位な立場となりうる)
一連の報道では、アイテックと取引のあった複数社がすでに倒産しており、典型的な「トカゲのしっぽ切り」状態となっている。アイテック代表は(公社)日本医業経営コンサルタント協会の副会長にも就任していた(2020年6月28日時点)が、医療コンサルティング企業としての再生へ向け、これまでの収入構造として、純粋なコンサル案件フィーと医療機器販売の割合(どこに何を売っていたのか)、それぞれの事業モデルを調査・公表し責任の所在を明らかにする必要がある。
出所:倒産速報|帝国データバンク、東京商工リサーチ、日本医業経営コンサルタント協会
倒産情報倒産速報記事ジェミック株式会社、ニュースイッチ
アイテック社HP、法人正会員(認定登録 医業経営コンサルタント法人)
4/28付け アイテック社の再生計画承認
民事再生中であったアイテック株式会社は28日、2023年3月15日に再生計画が認可決定され、2023年4月13日をもって再生計画の認可決定が確定したことを公表した。
これに前後し、資本金を4.8億円から1億円に減資、社長及び取締役執行役員、執行役員も変更されているが、一部取締役の残留がみられる。
また、執行役員の担当事業は主に、海外事業、国内事業、情報システム、医療機器の4分野となっている。
資金ショートの一因とされる海外事業、医療機器販売事業を継続する組織体制は大きな変更もなく、これまで通り維持される模様。
再生前 | 再生後 | |
---|---|---|
資本金 | 4.8億円 | 1.0億円 |
役員数 | 8名 | 7名 |
社員数 | 90名 | 50名 |
同日付で更新されたウェブサイトには、2025年までに会社の再建が理念に据え置かれ、創業家社長がひっそりと削除された。新代表による挨拶が掲載され、社内ガバナンスの見直し等に言及しているが、民事再生法適用申請に至る関連会社間の架空・循環取引等については触れられていない。
関係者によると、体制について、旧経営陣は社長室付けとして残され、また、引き続き残された医療機器等の販売部門が、メーカーやディーラーに対し、販売(商流)への参加を依頼しており、各社は困惑しているとのこと。
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