地方独立行政法人東京都立病院機構が始動

独立行政法人東京都立病院機構の始動
独立行政法人東京都立病院機構の始動

2022年7月1日、都立病院(8病院)と公社病院(6病院・東京都がん検診センター)を一体として地方独立行政法人化し、地方独立行政法人東京都立病院機構が設立された。

同日設立式が開催され、平成24年6月から29年10月まで東京都副知事を務めた安藤立美氏が法人の理事長に任命された。

小池知事は「都立・公社病院の地方独立行政法人化は、医療機能の強化と患者サービスの向上を一層推し進めるもの」と話した。

新しいウェブサイト

地方独立行政法人東京都立病院機構

地方独立行政法人東京都立病院機構 第1期中期計画 抜粋

第一期中期計画では、東京都立病院機構としての基本的な立ち位置(担うべき役割)が示されている。基本的にはこれまで各病院が担ってきた機能を引き継ぐものとなっている。

また、今後ニーズが高まる予想の総合診療については、「総合診療科を充実」としている。

運営面に関して、いくつか新たな機能が示されており、ノウハウを持つ企業にとってはビジネスチャンスとなる可能性があるため、赤字で示し、最下段に所感を記す。

行政的医療や高度・専門的医療等の安定的かつ継続的な提供

  • ア がん医療 • 難治性がんや合併症を伴うがん患者等に高度で専門的ながん医療を提供
    • AYA世代がん患者に適切な医療等を提供
  • イ 精神疾患医療
    • 精神科救急医療、精神科身体合併症医療など専門性の高い精神疾患医療を提供
    • こころとからだを総合した児童・思春期精神科医療を提供
  • ウ 救急医療
    • 東京ERの運営など総合的な救急医療を提供
    • 脳血管疾患や心疾患、重度外傷等の様々な救急患者の受入れを推進
  • エ 災害医療
    • 都の方針を踏まえ、災害拠点病院等に求められる役割に応じた災害医療を提供
    • 関係機関等との合同訓練等を通じて地域の災害対応力を向上
  • オ 島しょ医療
    • 島しょ地域の救急患者等を受け入れる体制を整備し、島しょ医療を提供
    • 島しょ地域の医療を支える人材を育成
  • カ 周産期医療
    • ハイリスク妊産婦や新生児等に対して高度で専門的な周産期医療を提供
    • 未受診妊婦など社会的リスクを抱えた妊産婦に適切な医療等を提供
  • キ 小児医療
    • 希少疾患等に対し先進的かつ専門性の高い小児医療を提供
    • 医療的ケア児の在宅療養への円滑な移行を支援
  • ク 感染症医療
    • 都が行う感染症対策を踏まえながら、各病院の感染症医療提供体制を整備 • 有事の際に即戦力となる看護師等を育成し法人全体の感染症対応力を強化
    • 看護師の派遣による指導等により、地域の感染症対応力の強化に貢献
  • ケ 難病医療
    • 脳・神経系難病、免疫系難病等に対して高度で専門的な難病医療を提供
    • 早期の診断から進行期の診療・ケア、療養支援に至る一貫した医療を提供
  • コ 障害者医療
    • 障害者の合併症医療や障害者歯科医療等を提供
    • 地域の医療機関等への技術支援等を通じて、在宅療養への移行を支援
  • サ 総合診療の提供
    • 総合診療科を充実し、入院患者の様々な症候に対応
    • 大学や地域の医療機関とも連携しながら総合診療医を確保・育成
  • シ その他の行政的医療等の提供
    • 難治性のアレルギー疾患等の質の高い行政的医療を提供
    • 新たな医療課題や地域の医療課題に対応

効率的・効果的な法人運営体制の構築

  • 人事や予算の弾力的な運用等により、効率的・効果的な病院運営を推進
  • 病院長への適切な権限の設定等により、患者ニーズ等に機動的に対応

人材の確保・育成

  • 職員の能力を最大限発揮できる人事・給与制度の構築等により人材を機動的に確保
  • 育成 ・病院経営に関する知識を有する事務職員を確保・育成
  • 意欲的に業務改善に取り組む組織風土を醸成

財務内容の改善

  • 収入の確保
    • 診療報酬改定に柔軟・迅速に対応し、医療の質を高める施設基準を取得
    • 病病連携等の推進により、紹介、返送・逆紹介を推進
  • 適切な支出の徹底
    • DPCデータの分析等により職員のコスト意識を向上
    • スケールメリットを生かした調達を推進

病院運営におけるDXの推進

  • AIの活用等による医療の質の向上、ICTの活用による診療情報の共有、システム化 による業務効率化などにより、QOS(クオリティ・オブ・サービス)を向上
  • 都と連携し、病院運営におけるDXの推進に向けた計画を策定

施設・設備の整備

  • 広尾病院、多摩メディカル・キャンパスの各施設整備計画に則り整備を推進
  • 多摩北部医療センターの改築に向け検討

都立病院機構の病院一覧

番号施設名主な機能
1東京都立広尾病院救急医療(三次、熱傷等)、災害医療、島しょ医療、小児医療、精神科身体 合併症医療、障害者歯科医療
2東京都立大久保病院救急医療(二次、脳卒中)、腎医療、災害医療
3東京都立大塚病院周産期医療、小児医療、児童精神科医療、救急医療(二次、脳卒中)、障害者(児)医療、災害医療
4東京都立駒込病院がん医療(ゲノム、難治性、合併症併発等)、造血幹細胞移植医療、感染症医療(主に一類・二類)、救急医療(二次)、災害医療
5東京都立豊島病院救急医療(二次、脳卒中、急性心筋梗塞)、がん医療、周産期医療、小児医療、精神科救急医療、精神科身体合併症医療、感染症医療(主に二類)、障害者歯科医療、災害医療
6東京都立荏原病院救急医療(二次、脳卒中)、感染症医療(主に一類・二類)、がん医療、精神科身体合併症医療、小児医療、障害者歯科医療、災害医療
7東京都立墨東病院救急医療(三次、熱傷等)、周産期医療、小児医療、感染症医療(主に一 類・二類)、がん医療(合併症併発等)、精神科救急医療、精神科身体合併 症医療、障害者歯科医療、災害医療
8東京都立多摩総合医療センター救急医療(三次、熱傷等)、周産期医療、がん医療(合併症併発等)、精神科救急医療、精神科身体合併症医療、感染症医療、難病医療、障害者歯科医 療、移行期医療、災害医療
9東京都立多摩北部医療センター救急医療(二次、脳卒中、急性心筋梗塞)、がん医療、小児医療、障害者歯科医療、災害医療
10東京都立東部地域病院救急医療(二次、脳卒中、急性心筋梗塞)、がん医療、小児医療、災害医療
11東京都立多摩南部地域病院救急医療(二次、脳卒中、急性心筋梗塞)、がん医療、小児医療、災害医療
12東京都立神経病院難病医療(神経、筋疾患)、災害医療
13東京都立小児総合医療センター小児救急医療(三次)、小児がん医療、周産期医療、小児専門医療(心臓病、腎臓病等)、児童・思春期精神科医療、小児結核医療、小児難病医療、 アレルギー疾患医療、障害児歯科医療、移行期医療、災害医療
14東京都立松沢病院精神科救急医療、精神科身体合併症医療、精神科専門医療(アルコール、薬物依存等)、医療観察法医療、精神障害者歯科医療、災害医療
15東京都立がん検診センターがん検診事業
都立病院の一覧

想定組織図

東京都病院経営本部「新たな病院運営改革ビジョン(素案)~大都市東京を医療で支え続けるために~」(令和元年(2019 年)12 月)によると、東京都病院機構の組織図(運営のイメージ)は以下の通り。

東京都病院機構の組織図
独立行政法人東京都立病院機構の組織図(検討段階のもの)

出所:

東京都 都政レポート2022年7月「新たな都立病院」スタート

東京都 報道発表令和4年(2022年)7月地方独立行政法人都立病院機構 第1期中期計画

ビジネスチャンスについて(所感)

  • 主に人材確保・開発系、人事評価制度及びそのシステム、KPIの分析システム及びその運用モニタリング、包括的なDX化支援
  • 特に経営管理システムについては、各病院を統合した共通管理システムとする必要がある。
  • 膨大に蓄積される診療データは、匿名化した上で治験や新たな機器、システム、医薬品等の開発に利活用できる可能性がある。
    • 研究開発による収益化は難しいため、寄付等を受け付けるか。
  • 一方で、一括調達に関しては、PFI整備により包括化されている部分も多く、どこまで効果が上がるかは疑問。
    • 全国チェーンの公的病院では機器の一括調達を実施しているが、膨大な相見積もりが発生し、これを外部委託しており、見方を変えると大きなディーラーが中間をグリップするため、極端な価格削減圧力はないのではと推察される。
    • 部門システムは各病院・各部署でこだわりがあるため、中長期的な統合推進プロジェクトが必要か。⇒地域連携等の看護部・事務系から統合しコスト削減が望ましいか。
    • 医療材料・薬品等に関し、既存のディーラーの反発が予想される。
    • 実は見えざるコストは「システム系」にあると推察され、各病院で異なるシステム、独自のこだわり機能などが存在しており、これを統合し調達・運用コストを下げるという方が効率が上がる可能性がある。(加えて、一層のDX投資コストが発生する)
      ⇒システム費は5年償却が多く、コストをサブスク化しているベンダーもあり、システムコストを積み上げて総額表示するのが困難なため、コストが見えにくい。
      ⇒加えて、医療機器も同様だが、本体コストを下げて「保守費」に月額費用を転嫁することも可能であるため、「本体+保守(サブスク部分)」でコストをモニタリングする必要がある。

独立行政法人のメリデメ

その他、独立行政法人化に反対の意見もあり、メリット・デメリットを引き続き見守る必要がある。

メリット

  • 意思決定の迅速化
  • 安定した専門的な人材確保
  • 弾力的、効率的な経営管理
  • 目標設定や業績評価が可能
  • 経営の黒字化が見込まれる

デメリット

  • 不採算部門が切り捨てられる
  • 効率性を求めるあまり過重労働を現場に強いる
  • 事務負担の増加
  • 非公務員化に伴い職員の離職が増える
  • 経営改善命令など行政の関与が増える