下関市は、下関医療圏において将来も持続可能な医療提供体制を確保するため、建替えの時期が近い下関市立市民病院と下関医療センターを統合した、新たな病院整備の可能性を検討しており、基本構想を公表している。
下関医療圏における現状と課題
人口の減少
- 下関医療圏の人口は既に減少傾向にあり、年齢構成別にみると 65 歳以上人口は令和 2 年(2020 年)に、75 歳以上人口は令和 7 年(2025 年)にピークを迎える見込み
- 高齢者人口に比べ生産年齢人口の減少速度が速く、将来的には働き手の確保が困難になる可能性がある
- 高齢者人口の影響を強く受ける入院医療需要は令和 2 年~令和 12 年(2020 年~2030 年)をピークに減少する見込み
医療需要に係る課題
- 下関医療圏において、急性期医療を担う 2 病院(下関市立市民病院、下関医療センター)の総病床数(地域包括ケア病棟・緩和ケア病棟を除く)は、493 床であり、令和 4 年(2022 年)の 1 日あたり入院患者数は 365 人、病床稼働率は 74%
- 今後は、高齢者を含めた全ての年代で人口の減少が見込まれ、それに伴う医療需要の縮小により、2 病院においても 1 日あたり入院患者数が減少し、令和 27 年(2045年)の 1 日あたり入院患者数は 326 人、病床稼働率は 70%を下回る見通し
- 将来も、現在の病床数を維持する場合、病床稼働率の低下により、施設設備や人員とのミスマッチが生じ、今後生じる生産年齢人口の減少による医療従事者確保の問題や病院経営悪化による事業の継続性に課題
救急搬送に係る課題
- 平成 29 年度(2017 年度)から令和 4 年度(2022 年度)までにおける下関市の搬送受入数は、令和 2 年度(2020 年度)で一時的に減少したものの、令和 3 年度(2021 年度)及び令和 4 年度(2022 年度)は増加
- 平成 30 年度(2018 年度)以降は、収容所要時間は年々長時間化
- 搬送受入不可件数も年々増加しており、特に処置困難や処置中・手術中といった理由から受入不可となるケースが多くある
- 輪番制で行っている二次救急医療は、診療科の減少等の理由により厳しさが増しており、将来を見据えた救急搬送体制の再構築が必要
医師に係る政策動向について
- 新専門医制度の開始や、医師の働き方に関する制度改正により、病院の勤務環境の整備、症例数の確保がこれまで以上に求められるようになり、十分な医師の確保が課題
- 大学医局は病院へ医師を派遣し続けることが難しくなっており、今後は医師の確保がさらに困難となる見込み
- 下関医療圏においても、医療圏の患者数が今後減少していく中で、働き方改革を進めつつ、一定の症例数を確保し、新専門医制度等にも対応しながら下関医療圏で医師養成を行う体制を継続していくためには、病院機能の集約が必要
建替えの必要性について
- 急性期機能の病院が一般的に築 30 年から 40 年で建替えることを踏まえると、下関市立市民病院は令和 5 年(2023 年)現在において建替えの検討が必要な時期に入っており、下関医療センターも近々建替えの検討が必要な時期
- 今後医療需要の縮小が予想される中、将来の医療需要への適応、医師の確保と医療の質の向上などの視点を踏まえれば、地域の実情にあわせた病院の規模と機能を検討し、病院の再編・統合をすることが必要な状況
- 将来も持続可能な医療提供体制を確保するためには、各病院が良好な経営状況となるように建替え時期等を踏まえ、各病院の建替えのタイミングに合わせて段階的に再編・統合を進めていく必要
新病院整備の基本的な考え方
- 新病院は、下関市が建設する
- 下関市立市民病院及び下関医療センターの2病院の統合による課題解決を基本的な方針
- 再編・統合にあたっては、病院間での機能の分担や業務の連携により質の高い医療が提供できるよう、2病院が継続的に協議を行いながら役割分担・連携強化を図るため、地域医療連携推進法人の設立に向けて検討
建設候補地は幡生操車場跡地か
建設候補地を選定する際には、土地の確保面積が一定程度あること、浸水リスクが少ないこと、交通アクセス等の観点を考慮する必要があります。新病院においては、以下の観点から建設候補地を選定している。
- 4ヘクタール以上のまとまった土地の確保が可能であること
- 山口県の緊急輸送道路ネットワークに近接していること
- 公共交通(駅やバス停留所など)に隣接していること
- 津波や高潮、内水氾濫などの災害リスクが少ないこと
候補地① | 候補地② | 候補地③ | |
土地 | 幡生操車場跡地 (市有地) | 民地 (山林) | 民地 (農地) |
確保面積 | 約6ha | 約4.2ha | 約4.2ha |
幹線道路 アクセス | 第2次緊急輸送道路に 近接 | 第2次緊急輸送道路に 近接 | 第1次緊急輸送道路への アクセス道路あり |
公共交通 | 幡生駅:約0.5km バス停留所:近隣 | 幡生駅:約1.3km バス停留所:近隣 | 新下関駅:約1km バス停留所:なし |
用途地域 | 準工業地域 | 第1種低層住居地域 (病院立地不可) | 市街化調整区域 |
災害リスク | 洪水浸水想定 なし | 洪水浸水想定 なし | 洪水浸水想定 最大0.5~3.0m |
その他 | JR西日本と協議が必要既存計画の調整が必要 | 都市計画の変更が必要 山を切土し、整地が必要 (約1.5年程度要する) | 農地転用許可が必要 地盤改良のプレロード 期間が必要 |
- 候補地①は、候補地②と③に比べ、交通の利便性に優れ、災害リスクが少なく、土地改変が少ない(事業期間が短い)ことから、建設候補地として優れている
- 候補地①は、既に本市の特別会計が土地を保有している「幡生操車場跡地」であり、地権者と用地取得交渉の必要が無い点でも優位性が認められる
- 候補地②は、山を切土して整地に約 1.5 年程度要することが想定
- 候補地③は、農地転用や地盤改良のプレロード(圧密促進)期間が必要
- 候補地②と③は、候補地①に対して事業費の増加や事業期間が長くなるといったデメリット
想定される整備スケジュール
- 2024年中に基本計画作成に着手、27年には建設工事が始まり、統合後の新病院は2029年に運用開始予定。
- 新病院建設後の現市民病院の病院施設については、施設の躯体が耐震性を有しており、急性期病院の用途でなければ、一定の改修を行った後に有効活用が可能と考えられることから、サウンディング調査等の市場調査を行い、民間売却の可能性を検討
下関市立市民病院の概要
名称 | 下関市立市民病院 |
住所 | 下関市向洋町一丁目 13 番 1 号 |
開設年月日 | 1950 年 3 月 20 日(地方独立行政法人設立:2012 年 4 月 1 日) |
許可病床数 | 382 床(一般 376 床、感染症 6 床) (HCU1:10 床、急性期一般入院料1:292 床、地域包括ケア病棟入院料2:54 床、緩和ケア病棟入院料 2:20 床) |
建築時期 | 1988 年(築:35 年) |
役割・機能 | 急性期医療を担う地域における中核病院救急告示病院 臨床研修指定病院災害拠点病院 地域医療支援病院 在宅療養後方支援病院 第二種感染症指定医療機関 |
診療科目・部門 | 内科、血液内科、腎臓内科、糖尿病内分泌代謝内科、リウマチ膠原病内科、緩和ケア内科、ペインクリニック内科、呼吸器内科、循環器内科、消化器内科、神経内科、精神科、外科、消化器外科、脳神経外科、呼吸器外科、心臓血管外科、小児外科、整形外科、リハビリテーション科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、放射線診断科、放射線治療科、麻酔科、 乳腺外科、救急科、病理診断科、歯科、歯科口腔外科(計:33 診療科) |
職員数 | 510 人(医師:62 人、看護師:291 人、医療技術員:103 人、事務員:54 人) |
基本理念 | 「安心の優しい医療を提供し、市民から信頼される病院を目指します」 |
基本方針 | 市民のニーズに応じた最善の医療を提供します。 重点診療項目として、悪性疾患、救急及び生活習慣病に取り組みます。安定した健全な病院経営を目指します。 |
出所:下関市「新下関市立病院に関する基本構想 (素案) 下関市」
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