小田原市立病院の新病院基本設計が公開されているが、本件は2021年11月に株式会社山下PMCとコンストラクションマネジメント業務委託に関する契約を結んでいる。
コンストラクションマネジメント(CM)とは
「CM方式」とは、建設生産に関わるプロジェクトにおいて、コンストラクションマネージャー(CMR※2)が、技術的な中立性を保ちつつ発注者の側に立って、設計・発注・施工の各段階において、設計の検討や工事発注方式の検討、工程管理、品質管理、コスト管理などの各種のマネジメント業務の全部又は一部を行うものである。
日本CM協会によると、2020年度現在で全国で年間約2,500件のCM案件が稼働しており、CMの市場規模は年間250億円程度まで拡大しているとされる。
CMが必要とされる背景
市場規模は250億円と大きくはないが、その理由のひとつとして挙げられるのが認知度の低さとも思われる。病院建設事業においても、「まずは設計のたたき台から」と始まり、設計会社と施工会社で事足りていると考える事業主が多い。
また、コスト削減につながるとはいえ、設計会社と施工会社から見ると、自分たちの提案内容がCM会社という第三者に評価される(=CMによる指摘は、病院側から見ると設計・施工会社の検討不足と取られる)ため、彼らから積極的に利用する提案は出てこない。
まず、病院として「病院建設という大規模投資の際にはCM機能が必要だ」と認識しておく必要がある。
近年、病院建設においては事業構造が複雑化している中、大きな規模の病院設計経験の少ない設計会社が設計している事例も見られる。特に民間病院においては、小さな改修等で頻繁に出入りする設計会社の方が病院側の信頼を得やすく、そのまま設計も受託しやすい。ところが、経験の少ない設計会社にありがちな根拠に基づかないブロックプランに対し、病院側も根拠を持って意見を言えない場面が多々見られ、第三者による設計レビューが求められる潜在ニーズは高い。
※救急エリア付近に保育室を配置してしまう、手術室に透析室を理由なく併設、既滅菌室を通らないと洗浄室に行けない配置例などもある・・・。
一方で、CM会社を採用することによるコスト削減効果が事前に見えにくい点、またそれに対する病院側の支払い意欲(コスト削減に数千万円を払う認識)が低く、事業規模が小さいほどCM会社が受けたがらない(受けられない)こともある。
CMを利用するメリット・デメリット
病院建設においてCM会社を利用するメリットとして、病院側にない建設に係る運営ノウハウを比較的低コストで調達できる点である。運営ノウハウの中には、投資効率の高い規模や複数案の立案、CM会社に蓄積された建築コスト等のデータベースに基づいた精度の高い見積もり、設計者や施工者選定の公正な競争環境の整備によるコスト削減効果が期待できる。
以下は国交省資料での「方式の効果等」より抜粋
- 複数工事が輻輳するあるいは関係機関等との頻繁な調整が必要な事業に対応する方式である。
短期的に発注者の人員が不足し、現場状況の確認や迅速な対応が難しい場合に、適宜それらの
確認・対応が可能となる。 - 複数工事の工区間調整や関係機関等との協議等において、発注者の職員の代わりに、CMRが
助言・提案・資料作成等を実施することで発注者を補完できる。 - 設計業務・工事等の経験の少ない監督職員が、高度な技術力を要する判断・意思決定を行う必
要がある場合に、CMRが適切な助言・提案・資料作成等を実施することで発注者を補完でき
る。 - 設計業務・工事等の経験が少ない監督職員が、高度な専門技術力を持つCMRとともに監督を
実施することで、監督職員の技術力向上が期待できる。 - CMRからの地元業者に対する書類作成や施工上の助言を通じて、地元業者の技術力の向上が期待できる。
- 最終的な判断・意思決定までのプロセスにCMRが参画することで、透明性・説明性の向上が
期待できる。
一方、デメリットとしては、それなりにフィーの負担が必要であるにもかかわらず、CMRのパフォーマンス測定が難しい点が挙げられる。様々なコスト削減施策を提案・実施する中で、どれがCM会社のバリューとして評価すべき対象なのか、設計・施工が進む複雑な工程の中で分かりにくくなってしまうことがある。また、CMRによっては、コスト削減を強調しすぎて無難な設計・施工になったり、「やりすぎ」なコスト削減提案になることもある。
また、国交省資料では留意点として、発注者の職員と設計業務・工事等の受注者の間にCMRが介在することから、最終的な判断・意思決定の手続が、一時的に滞る可能性がある点、設計業務・工事等の監督に関して、発注者とCMRそれぞれの権限範囲について明確化し、その内容を設計業務・工事の受注者に対して明示・周知する必要がある点を挙げている。
CM会社を利用するコストパフォーマンス
小田原市新病院建設(設計・交渉段階)コンストラクションマネジメント業務委託では、2021年11月~2023年12月までの26か月間で約6,400万円(税込み)なので、ひと月あたり250万円となる。全体の事業費が288億円(基本計画時点)のため、全体から見たら0.2%と低め。
その他の事例として、
千葉市立新病院整備実施設計CM業務委託では16か月で3,800万円、宍粟市新病院整備基本・実施設計コンストラクション・マネジメント業務では24か月で5,000万円、現在募集中の岩見沢市新病院基本設計コンストラクション・マネジメント業務では12か月3,800万円とあり、規模にもよるが200~250万円/月が相場感となっている。※岩見沢市新病院は期間が12か月と短いため高単価である可能性あり
医療機関名 | 期間 | 金額 | 月換算 |
---|---|---|---|
小田原市新病院 | 26か月 | 6,400万円 | 250万円 |
千葉市立新病院 | 16か月 | 3,800万円 | 237万円 |
宍粟市新病院 | 24か月 | 5,000万円 | 208万円 |
岩見沢市新病院 | 12か月 | 3,800万円 | 317万円 |
総事業費からみて低いフィーであるが、建築や構造、機械や電気設備、工事計画、コストなど幅広い専門家・技術系職員をまとめて病院側のチームとして組み込めることから、バリュー(コスト削減効果)が1%でも出せれば費用対効果は高いと言える。
CM会社と設計会社との違い
CM会社と設計会社の基本的な違いは、クライアントの要望を的確に意匠に展開していくのが設計会社、要望をコストベースで選択肢や代替案を提案するのがCM会社という違いが挙げられる。CM会社によっては病院建設の初期段階のブロックプラン(ボリュームプラン)等を作成することもあるが、前出のCM方式の類型の通り、基本的な機能としては設計・施工に対するマネジメントという位置づけとなっている。
CM会社の採用は設計者・施工者に対する病院側の牽制手段や抑止力と考えるべきだろう。
CM会社を採用する事業フェーズ
病院によっては、基本設計が完了した段階で「どのくらいコスト削減できますか?」という話もあるが、すでにコスト削減できる施策は限られているのが実状である。そのため、基本計画段階からのCM採用が望ましい。
現在は公的病院によるCM方式の採用が多いが、今後は公的・民間を問わず、新病院や増改築等の構想段階でCM方式の採用案を採択、基本計画段階での採用、設計者や施工業者の選定に必要な与条件・契約内容等を整理することで早い段階でコストを意識した事業推進が可能となる。
CM会社の選び方
CM会社の選び方であるが、日本CM協会では、2018年からCM事業者名簿を発行しており、ここから各社へ確認する方法がある。
独立系、設計系、ゼネコン系と複数の特徴がある。独立系は完全な第三者的視点でのアドバイスが可能、設計系は設計+CMを一体的に実施可能、ゼネコン系は施工の実コストの把握が可能であるが、それぞれ企業とごとに特徴は異なるため個別に確認が必要である。
独立系では株式会社 プラスPMや日建設計コンストラクション・マネジメント株式会社、株式会社 病院システム、設計系では株式会社 久米設計、株式会社 梓設計、株式会社 日建設計、株式会社 山下設計、などが比較的多くの実績を有するが、選定の際は複数企業それぞれの実績を確認し、自院にあったパートナーを選定することが望ましい。
留意点
- 同時期に複数業務を受託していると人的リソース不足が発生し受けられないことがある
- あまりにも小規模の建設の場合、費用対効果が小さく業務を受けてもらえないことがある
出所:一般社団法人日本コンストラクション・マネジメント協会、小田原市新病院建設(設計・交渉段階)コンストラクションマネジメント業務委託、
参考:国土交通省「公共工事の入札契約方式の適用に関するガイドライン 」(令和4年3月改正)、CM方式活用事例集- 知りたいが見つかる28 選 –
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