医療・行政で使える商圏距離の考え方

商圏距離(1km・3km・5km)を設定する理由
商圏距離(1km・3km・5km)を設定する理由

商圏の基本と、1km・3km・5kmを用いる理由

——医療・行政で使える商圏距離の考え方——

医療機関の開設・再編、行政の地域医療施策、あるいは小売業の出店計画において、最も重要な概念が「商圏(しょうけん)」です。
商圏とは、利用者がどの範囲から来院・来店しているかを示す地域のことで、需要予測や競合分析の基本となります。

特に医療分野では、徒歩圏から車圏まで、日常の移動手段が商圏を大きく左右します。
一般的に、1km・3km・5km の3つの距離が最もよく使われます。本稿では、この距離設定の理由と、商圏を考える上で押さえておきたい基本概念を整理します。

なぜ「1km・3km・5km」なのか

1km商圏:徒歩圏(クリニック・有床診療所)

1kmは徒歩10〜15分ほどの距離です。
都市部では、生活の多くが徒歩圏で完結するため、内科・皮膚科・耳鼻科・婦人科などのクリニックは1km以内の住民が主要な患者層になります。

  • 徒歩で行ける範囲=もっとも利用頻度が高い
  • 「かかりつけ医」は生活圏内で完結する
  • 日常的に通いやすく、距離の心理的負担が小さい

3km商圏:自転車・バス圏(中規模クリニック群・小病院)

3kmは、自転車で10〜15分、バスで1〜2停留所の範囲です。

  • 徒歩圏よりやや広い「生活行動圏」
  • 特定の診療科を選ぶ行動や、「多少は遠くても良い」という心理が働く
  • 郊外でも「普段の通院圏」として成り立つ距離感

整形外科・皮膚科の専門クリニック、地域密着型の中小病院などは3km商圏が強く意識されます。

5km商圏:車圏(中〜大規模病院)

5kmは、車で10〜15分程度の距離です。

  • 入院・手術など“目的性の高い医療”は利用者が多少遠くからでも来る
  • 地方・郊外では生活圏そのものが広い
  • 周辺自治体を跨いで受診するケースも多い

総合病院、産科・小児科、専門性の高い医療機関は、5km圏が基本商圏として扱われます。

参考:【河北医療財団】河北総合病院移転開院のお知らせ 2025年7月1日

地域内完結型医療へ
河北から半径5km圏内、約100万人の医療を支えます。

商圏距離を考える際の「基本的な視点」

1km・3km・5kmだけでは説明しきれない、商圏の本質があります。
以下の5つを理解しておくと、より実態に合った分析や戦略立案が可能になります。

① 商圏は「距離」ではなく「時間」で決まる

実際の住民行動は、距離よりも移動時間に依存します。

● 人の行動は“15分ルール”

  • 徒歩:1km(10〜15分)
  • 自転車:3km(10〜15分)
  • 車:5〜7km(10〜15分)

人は「15分以内なら負担が少ない」と感じ、自発的に行動します。
この行動心理が、1km・3km・5kmを設定する根拠になっています。

② 都市部と地方で商圏は大きく異なる

● 都市部(電車・バス中心)

  • 徒歩・電車・バスで生活が完結
  • 多くのクリニックは1km圏内の住民が中心
  • 駅からの距離が来院率に大きく影響

● 地方(車社会)

  • 車移動が中心で、生活圏が広い
  • 5km〜10kmでも一般的
  • 病院の商圏は自治体の境界を越えることも珍しくない

③ 目的性が高いほど商圏は広がる

医療は目的性の差が大きい業種です。

目的性商圏
低(ついで・軽度)内科、調剤薬局〜1km
中(ある程度選ぶ)整形外科、皮膚科〜3km
高(専門・信頼)産科、小児科、手術5〜15km以上

“わざわざ行く価値がある”と判断されるほど商圏は広くなります。

④ 大規模施設ほど遠くから患者を吸引する(重力モデル)

マーケティング理論の「重力モデル」では、

  • 大きく(提供価値が高い)
  • 便利な施設は

より広い範囲から人を引き寄せると説明されます。

そのため、
クリニック=近距離商圏(1km)
病院=広域商圏(5km以上)

という構造が成り立ちます。

⑤ 道路・地形によって商圏は“歪む”

地図上の円がそのまま商圏になるとは限りません。

  • 川・鉄道・高速道路で分断
  • 坂が多い地域では徒歩圏が実質的に狭くなる
  • 国道・幹線道路沿いは商圏が伸びる
  • 病院が橋の向こう側にあると実質距離が“遠く”なる

現実の住民行動は、地形・道路網・交通手段に強く影響を受けます。

商圏分析で見るべきポイント

医療機関の出店・再編・経営分析では、次の3点を必ずセットで確認します。

  1. 人口(推計人口):年齢、性別、将来予測
  2. 競合(医療施設数・診療科・病床)
  3. 到達性(道路・交通・移動時間)

これらを地図上で可視化し、1km・3km・5km圏での需要と競合を比較することが最も有効です。

商圏調査にチャレンジしよう

医療・行政・小売に共通して、1km・3km・5km の商圏は、人間の生活行動そのものを反映した距離設定です。

  • 1km:徒歩で行ける“日常利用”
  • 3km:自転車・バスでの“地域利用”
  • 5km:車で行く“目的利用”

そして商圏は、時間・目的性・地形・交通・施設規模といった要素によって変動します。

商圏距離の本質を理解することで、より実態に即した医療計画や出店戦略が可能になります。