高千穂町、日之影町及び五ヶ瀬町の3町は、3町の公立病院が担うべき役割を明確にし、将来にわたって地域に必要な医療を提供できる体制を維持することを目的とした「検討報告書」が7月に提出されたことを受け、住民説明会やパブリックコメントの実施を通じて検討を進めてきた結果を「西臼杵地域における医療連携に係る基本構想」としてとりまとめ公表した。
計画の背景は人口減少と効率的な病院運営
- 宮崎県北部に位置する西臼杵郡は高千穂町、日之影町、五ヶ瀬町の3町で構成
- 西臼杵郡には、公立病院の高千穂町国民健康保険病院、日之影町国民健康保険病院、五ヶ瀬町国民健康保険病院、民間病院の医療法人和敬会国見ヶ丘病院の4病院が所在
- 西臼杵郡3町における総人口は、1987年から2020年における33年間において、約40%減少している一方、医療機関(4病院と診療所)の総病床数は約18%の減少であり、これからますます人口減少が進むと予測される中で、将来的な西臼杵地域における医療提供体制の見直しが急務
- 高千穂町国民健康保険病院、日之影町国民健康保険病院、五ヶ瀬町国民健康保険病院においても、各病院で新公立病院改革プランが策定され、病院機能の見直しや経営改革が進められてきた
- 延岡西臼杵圏域の既存病床数2,015床(2017年の病床機能報告)に対して、2025年の必要病床数は1,357床と推計されており、既存病床数は約32%過剰
- 厚生労働省は、2019年9月末に、地域医療構想の実現に向けた具体的対応方針の再検証を求める424病院の名前を公表、西臼杵郡においては、五ヶ瀬町国民健康保険病院が含まれていた
- 西臼杵郡における地域医療のあり方検討委員会が2020年12月に設置され、学識経験者、医療関係者、住民代表者、行政関係者の委員により、西臼杵郡3公立病院のあり方について検討を重ね、その結果を「西臼杵地域公立病院部会検討報告書」としてとりまとめ、西臼杵郡3公立病院の職員向け説明会、及び、西臼杵郡3町の地域住民説明会、パブリックコメントを経て、「西臼杵地域における医療連携に係る基本構想」を取りまとめ
目指すは地域のマグネットホスピタル
西臼杵郡3公立病院は、マグネットホスピタル・西臼杵モデルを掲げながら、西臼杵郡の地域医療の共通ゴールを達成するために、①医療機能、②医師確保、③経営形態の3テーマに関する具体的な検討を進める。
西臼杵郡3公立病院の医療機能を見直す前提条件として、3公立病院の既存建物が活用できる2030年頃までは、3公立病院の経営統合・機能再編を図りながら、西臼杵地域における持続可能な地域完結型医療の確立を目指すこととする。また、既存建物の活用が困難になる2030年以降は、新病院の建て替えを含めた抜本的な医療提供体制の見直しを予定する。
入院医療の今後の方向性
西臼杵郡 3公立病院における入院医療機能再編コンセプトでは、西臼杵郡 3 公立病院は郡内外の医療機関と従
来の地域医療連携を維持しながら、原則として、現状の西臼杵郡 3 公立病院が受け入れ可能な医療ニーズの入院
患者は全て受け入れることを目指す。加えて、西臼杵郡 3 町内の医療機関同士で地域医療連携を強化することで、
西臼杵郡 3 町外に流出している回復期~慢性期相当の入院患者を可能な限り受け入れることによって、西臼杵郡
3 町民が、より地元の病院に入院できる医療提供体制を目指す。
経営形態の方向性
一部事務組合(地方公営企業法全部適用)は、経営統合しないケースの現状維持と比較して、提供医療、病院経
営、病院職員(医師)、病院職員(医師以外)、将来的な新しい医療機関の整備における全ての項目に対して、メリットが大きいと考えられる。一方、地域医療連携推進法人は、制度自体に明らかな優遇措置が少ないため、全ての項
目に対して、一部事務組合と現状維持の中間的な位置づけとなる。経営形態に関する 3 つの選択肢の中で、地域医療連携推進法人が明らかに優れる点は少ないと考えられる。
結論として、 経営形態の選択肢において、一部事務組合による病院経営統合のメリットが大きいと考えられることから、西臼杵郡 3 町の病院事業を、一部事務組合(地方公営企業法全部適用)で経営統合することにより、西臼杵郡 3 公立病院の医療提供体制、及び、経営基盤の強化を目指すこととなった。
提供医療 | △ 「現状の医療の継続」や「不足している医療の拡充」に対応できるかどうかは、各病院で医師を確保できる可能性に依存する。 | △~〇 3 病院間で既存医師を最適配置し易くなるため、「現状の医療の継続」、「不足している医療の拡充」に一定程度対応できる可能性があるものの、その実現は医師の確保可能性に依存する。 | 〇 3 病院間で既存医師を最適配置することによって、「現状の医療の継続」、「不足している医療の拡 充」に一定程度対応できる可能性があるものの、その実現は医師の確保可能性に依存する。 |
病院経営 | 〇 3 病院間の連携による集患施策、共同購入等のコスト削減策は実施することが可能であり、職員交流を通じて経営ノウハウを共有できる。 首長がトップの場合、迅速な経営判断が難しい場合がある。 | 〇 3 病院間で連携は図り易くなるが、現状維持よりも高い効果が得られるとは限らない。また、地域医療連携推進法人の運営には監査報酬等の追加コストが発生する。 | ◎ 医療機能再編とネットワーク化により集患効果が高まる。共同購入や委託業者統一等のコスト削減策を実施し易くなる。組織的に経営ノウハウを蓄積することができる。事業管理者による迅速な経営判断が可能になる。 |
病院職員 (医師) | △ 医師の確保は現状の取り組みのみを継続しても、解決することは難しいと考えられる。 | △~〇 3 病院の共同リクルートができれば、採用活動を強化できる可能性があり、3 病院間における共同研修及び効率的な人員配置も図り易くなる。 | 〇 経営統合によって、大学医局への交渉力が高まる可能性がある。3病院の共同リクルートで採用活動が強化できる。医師の教育研修の方針は事業管理者の裁量で決められるようになる。 |
病院職員 (医師以外) | △~〇 医師以外の職員の採用状況は町によって異なる(給与水準や立地条件等)。3 病院の共同リクルートができれば、採用活動を強化できる。 | 〇 3 病院の共同リクルートができれば、採用活動を強化できる可能性があり、3 病院間における共同研修及び効率的な人員配置も図り易くなる。 | ◎ 採用活動は 3 病院の共同リクルートが基本になる。経営統合することで、3 病院間における効率的な人員配置も可能になる。 |
将来的な新しい医療機関の整備 | △ 各町で新しい医療機関を建て替る場合、各町による個別最適の判断で行われる可能性が高い。 | △~〇 3 病院(3 町)間で協議をし易くなるが、最終判断は各町による個別最適に基づいてしまうため、現状維持よりも高い効果が得られるとは限らない。 | ◎ 西臼杵郡 3 町全体最適の視点で行われるため、将来における医療ニーズの変化等を踏まえ、地域に必要な医療機能・規模を検討できる。 |
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