千葉県柏市は、柏市立柏病院再整備基本計画(案)を公開し、パブリックコメントを募集している。総事業費は181億円となり、2017年作成の「市立柏病院のあり方」時点から1.8倍となった。
小児二次医療体制の整備、急性期医療の提供、在宅復帰支援、日常的疾患への対応が盛り込まれている。また、今後も増加が見込まれる急性期疾患に対する診療体制の充実として、より高度で専門的な医療を提供する HCU(高度治療室)を整備し、救急医療提供体制の強化する計画となっている。
救急科と脳神経外科を新設
現状の診療科に加えて、救急科(総合内科医)と脳神経外科を新設する。
内科、呼吸器内科、消化器内科、循環器内科、内分泌・代謝内科、腎臓内科、肝臓内科、神経内科、
眼科、泌尿器科、小児科、外科、整形外科、 リハビリテーション科、放射線科、麻酔科
【新設】 計 2 科
救急科(総合内科医)、脳神経外科
新病院で拡充する機能
- 救急外来…救急外来を整備し、日中・夜間を通じて救急搬送を一元的に受け入れ、二次救急医療体制の充実を図る
- 感染症対策…新型コロナウイルス感染症に対応してきた経験を踏まえ、外来診療については、患者動線を分離した発熱外来を院内に設け、成人・小児の感染症医療に対応。また、入院診療については、陰圧設備の整備やゾーニングなどにより、新興感染症等の拡大時にも対応できる施設を整備
- 手術…汎用性の高い手術室を4室整備し、標準的な最新の設備・諸室を整備。また、バイオクリーン手術室を2室整備し、感染リスクの低減など、より安全な手術ができる環境を整備
- 健診センター…疾病予防と早期発見のため、検査・画像診断機能を有効活用し、検診機能を強化、健診利用者の動線やプライバシーに配慮した施設を整備
- 災害対策…地震などの大規模災害の発生時にも医療機能を維持できるよう、建物は十分な耐震性能を確保、最低3日分以上の電力・水を確保するほか、医療資材や食糧などの備蓄スペースを設け、災害時に備える
病床数は240床へ 40床増床
病床数については、あり方検討委員会の答申書より、「現在の許可病床数200床程度で検討すること」として提言を受けていたが、柏市の人口増加や救急医療への更なる対応強化による医療需要の増加を踏まえて、240床程度を整備することとした。
40床増床の考え方
- 2045 年の柏市の救急搬送件数の増加率は114.8%
- 現在、市外へ流出している救急搬送件数のうち、720 件/年(1日2件)程度を当院で受け入れ
- 新病院で想定される救急搬送件数の増加分を想定は978.2 件/年
- 978.2 件×55.0%(入院率)×20 日(平均在院日数)÷365 日÷85%(病床利用率)⇒ 約 40 床
増床にあたっては、令和 4(2022)年 7 月に千葉県に増床計画書を提出、同年 10 月の「東葛北部地域保健医療連携・地域医療構想調整会議」にて増床理由や積算根拠を説明済みとしている。
病棟構成
病棟 | 病床数 | 備考 |
---|---|---|
高度治療室(HCU) | 4 | ハイケアユニット 4 床を手術部門に併設 |
急性期一般病棟 | 36 | |
急性期一般病棟 | 40 | |
急性期一般病棟 | 40 | |
急性期一般病棟 | 40 | |
急性期一般病棟 | 40 | 小児 10 床程度を整備,プレイルームを設置 |
地域包括ケア病棟 | 40 | |
合計 | 240 |
施設規模は20,000㎡超
- 施設構成…病院(発熱外来含む)、院内保育、病児・病後児保育、救急隊の研修スペース
- 延床面積…20,160 ㎡程度(84 ㎡/床×240 床で積算)
- 院内保育、病児・病後児保育 200 ㎡程度
- 救急隊の研修スペース 50 ㎡程度 を含む
敷地の現状(主な病院建物)と配置案
新病院の建物配置について、3つの案(北側・中央・南西側)があり、各案の主な課題は次の通りであるが、計画の中では、敷地の中央案が最良の選択肢であると判断している。
案 | 主な課題 |
---|---|
北側 | ・主要な道路から現在よりも遠くなることで、病院へのアクセス性(救急搬送や患者等 の車両の動線)が悪くなる。 ・高圧鉄塔やがけ地を含む規制・高低差により、設計の自由度に制約があり、建設工事の難易度も高くなる。 |
中央 | ・建設工事の難易度が高くなることや工事期間が長期化する可能性がある。 ・既存の病棟が近いため、建設期間中の診療や療養環境への影響が懸念される。 ・介護老人保健施設はみんぐの住環境への影響が懸念される。 |
南西側 | ・患者用駐車場の代替地の確保が必要となる。 ・建築面積と施設規模の関係から、1フロアに1病棟の高層化した建物となり、西側の住宅地へ影が長時間落ちる可能性が高い。 |
整備手法はECI方式を採用
限られた敷地内での現地建替えは工事難易度が高く、設備の切り回しなど施工業者の知見を活かした設計が必要となることが想定されるため、実施設計の段階から建設会社(優先交渉権者)が技術協力で参画し、設計者と建設会社の2者協力のもと、次の理由により総合的に優位と考えられる「ECI方式」により今後の整備を進めることとしている。
近年ECIを採用する病院建設プロジェクトが多々見られるが、柏市立病院の基本計画では、そのメリットとして、以下を挙げている。
- 設計段階で、発注者と設計者に加えて施工者(建設会社)も参画することから、施工者が提案する技術やノウハウにより複数の代替案の検討ができ、施工段階における設計変更リスクを低減できる。
- 設計に対して施工者(建設会社)が施工等の観点から技術協力を行うことで、品質を維持して材料・工法を変更するなど、建設コストの縮減検討が可能となる。
- 施工者(建設会社)は事前に設計照査、工事準備等の検討ができるため、工事期間を短縮できる可能性がある。
新柏市立病院は2028年に開院予定
整備スケジュールは、ECI方式による整備手法とし、世界情勢による資材確保などの予期せぬリスクにより変更が生じる場合を除き、令和 10(2028)年頃の開院を目指し整備を進めていく。
概算事業費は181億円
新病院の事業規模や施設整備計画、社会・経済情勢などを踏まえ、基本計画の段階では新病院建設事業の概算事業費として、総額 181.2 億円を見込んでいる。
資材単価・労務単価など建設物価の変動などにより事業費は変更となる可能性があるため、基本設計段階で事業費を精査していくとしている。
1㎡当たりの建築単価は54万円、1床当たり換算で4,500万円。
項目 | 金額 | 備考 |
---|---|---|
(1)設計・監理費 | 7.0 億円 | 建築工事費×6%程度 |
(2)建築工事費 | 115.9 億円 | 延床面積20,160㎡×540千円/㎡ |
(3)ZEB化想定(工事費等) | 14.1 億円 | 建築工事費の10%程度 |
(4)外構工事費 | 3.0 億円 | 外構面積20,000㎡×15千円/㎡ |
(5)解体経費 | 4.8 億円 | 延床面積11,640㎡×41千円/㎡ |
(6)医療機器等整備費 | 33.6 億円 | 他事例を踏まえ,更新及び新規導入費用を積算 |
(7)設計・開院等支援 | 1.8 億円 | |
(8)移転費等 | 1.0 億円 | |
全体事業費 | 181.2 億円 |
事業費全体は構想時の1.8倍へ
事業費は181億円と試算されているが、「市立柏病院のあり方(平成 29 年度策定)」時点と比べ、総事業費が約 1.8 倍と大幅に増加している。
項目 | 事業費① | あり方策定時② | 比較額(①-②) | 比率(①/②) |
---|---|---|---|---|
(1)設計・監理費 | 7.0 | 3.0 | 4.0 | 2.3 |
(2)建築工事費※ | 115.9 | 77.0 | 38.9 | 1.5 |
(3)ZEB化想定(工事費等) | 14.1 | 0 | 14.1 | – |
(4)外構工事費 | 3.0 | 3.0 | 0.0 | 1.0 |
(5)解体経費 | 4.8 | 2.9 | 1.9 | 1.7 |
(6)医療機器等整備費 | 33.6 | 15.0 | 18.6 | 2.2 |
(7)設計・開院等支援 | 1.8 | 0 | 1.8 | – |
(8)移転費等 | 1.0 | 1.1 | -0.1 | 0.9 |
全体事業費 | 181.2 | 102.0 | 79.2 | 1.8 |
あまり例を見ない増加幅であるが、その理由を以下の通り説明している。
設計·監理費は約2.3倍へ
- 病床数増床や設計対象範囲の拡大による建築工事費増に伴い増額(約 1.5 倍)
- 現地建替えの付帯業務を考慮し工事費に占める割合を 4%から 6%程度へ変更(約 1.5 倍)
建築工事費は約1.5倍へ
- 昨今の経済情勢等の影響により資材価格が高騰しているため建設単価を増額(約 1.1 倍)
- 柏市の人口増加や救急医療への更なる対応強化による医療需要の増加を踏まえ,病床数を現在の 200 床から 240 床へ増床予定(約 1.2 倍)
- 新病院機能の拡張による 1 床当たりの延床面積の拡大(約 1.1 倍)
- 救急・入退院機能強化のため患者サポートセンター仮称や高度治療室の新設
- 感染症対応のため発熱外来を新病院建物内に整備
- 感染症対応や患者プライバシーの観点から病棟の個室割合を 30%~40%程度へ増加
- 病児病後児保育を含む院内保育所の新病院建物内への整備
ZEB 化想定(新たな項目)
当時は想定できていなかった経費として、ZEB 化の想定事業費(建設工事費等の約 1.1 倍)を見込んでいる。
解体経費は1.6倍へ
直近の他病院事例をもとに,アスベスト対策や既存・新設の建物や利用者への影響の軽減を考慮し、解体単価(円/㎡)を約 1.6 倍に見直し。
医療機器等整備費は2.2倍へ
- 当時の想定から時間が経過し多くの大型機器の更新が開院時に集中
- 効率化・高度化している最新の医療情報システムや医療機器を整備
- 患者の利便性向上のための情報システム・ネットワーク環境を整備
設計・開院等支援(新たな項目)
当時は想定できていなかった経費として、設計から開院までの6 か年分の経費を見込み。設計から工事、移転の各段階で医療コンサル業者等の専門的知見を活用。
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