都立病院初 駒込病院に陽子線治療装置を導入予定

都立駒込病院
都立駒込病院

都立病院機構は、陽子線治療に関する調査報告書の素案を公開しており、都立病院への導入を検討する最先端がん治療の内容が明らかになった。粒子線治療を提供するためには、大型施設の整備が必要なことや施設の整備に多大なコストを要することから 、国内の導入施設は限られており、都内では未導入。

やや結論ありきの内容・ストーリー構成が否めないが、都民の誰もが必要に応じて質の高い医療を受けられる環境整備を推進するため、都立病院に粒子線治療施設を整備すると繰り返し宣言しており、早期の整備が望まれる。

放射線治療の需要増加

近年では、放射線治療医の増加、放射線治療機器の普及などにより、低侵襲で日常生活を続けながら治療可能な放射線治療の需要が増加しています。

放射線治療の患者数は平成21年から令元年にかけ、20万人から23.7万人に増加している。

粒子線治療の保険診療・先進医療の適応症一覧(令和5年 12 月現在)

区分陽子線治療重粒子線治療
              保険診療・小児腫瘍(限局性固形悪性腫瘍) ・限局性骨軟部腫瘍※1 ・頭頸部悪性腫瘍(口腔・咽喉頭の扁平上皮がんを除く) ・肝細胞がん(長径4cm以上)※1 ・肝内胆管がん※1 ・局所進行性膵がん※1 ・局所大腸がん(手術後再発)※1   ・限局性及び局所進行性前立腺がん (転移を有するものを除く)  ・限局性骨軟部腫瘍※1 ・頭頸部悪性腫瘍(口腔・咽喉頭の扁平上皮がんを除く) ・肝細胞がん(長径4cm以上)※1 ・肝内胆管がん※1 ・局所進行性膵がん※1 ・局所大腸がん(手術後再発)※1 ・局所進行性子宮頸部腺がん※1 ・限局性及び局所進行性前立腺がん (転移を有するものを除く)
        先進医療・頭頚部腫瘍(脳腫瘍含む)※2 ・肺・縦隔腫瘍※2 ・消化管腫瘍※2 ・肝胆膵腫瘍※2 ・泌尿器腫瘍※2 ・乳腺・婦人科腫瘍※2 ・転移性腫瘍※2  ・肺・縦隔腫瘍※2 ・消化管腫瘍※2 ・肝胆膵腫瘍※2 ・泌尿器腫瘍※2 ・乳腺・婦人科腫瘍※2 ・転移性腫瘍※2
※1 いずれも手術による根治的な治療法が困難であるものに限る。
※2 いずれも根治的な治療法が可能なものに限る。

粒子線治療患者数は年間8,000人

粒子線治療患者数は、保険適用範囲の拡大や治療施設の増加などから着実に増加しており、令和3(2021)年度には陽子線と重粒子線合わせて 8,000 人を超える患者が治療を受けています。

令和3(2021)年度には陽子線と重粒子線合わせて 8,000 人を超える患者が治療を受けている

候補病院は駒込病院

都立病院では、駒込病院が都道府県がん診療連携拠点病院に、墨東病院及び多摩総合医療センターが地域がん診療連携拠点病院に、小児総合医療センターが小児がん拠点病院に指定されており、集学的治療を提供するとともに、都全域又は地域における連携体制の構築等について中心的な役割を担っています。

豊富な診療実績や充実した診療体制を有するとともに、がんに重点を置いた総合的な病院として、手術や薬物療法における最先端がん治療や臨床研究にも積極的に取り組んでいる駒込病院に陽子線治療施設を整備します。

整備スケジュール

最短で令和12年の運用開始とされる。

主ながんの治療法

手術

  • 手術の目的は、がんや臓器の悪いところを取り除くことです。がん細胞は周囲の組織に広がったり、リンパ管や細かい血管に入ってリンパ節や他の臓器に広がったりすることがあります。そのため、一般的にがんの手術ではがんができた臓器を大きめに切除します。手術の際には、手術の痛みを取り除き、安全に受けられるように、麻酔をかけて行います。
  • 手術の方法は、がんの種類や病気の進み具合などに応じて選択されます。手術する部位を直接目で見てがんを取り除く方法(開腹手術や開胸手術など)や、手術する部位を内視鏡で見ながらがんを取り除く方法(腹腔鏡下手術や胸腔鏡下手術など)があります。
  • 手術には合併症の発生などのリスクがあります。手術は体に大きなストレスや侵襲(体の内部の状態を乱す刺激)を加えるため、手術中や手術後の経過が必ずしも良好であるとは限りません。合併症は手術の部位によって様々であり、発生した場合は、症状に応じた治療が行われます。これらの合併症の予防と、手術後の身体機能の早期回復のために、多くの場合、手術の前からリハビリテーションを行います。

薬物療法

  • 薬物療法は薬によりがんを治したり、進行を抑えたり、症状をやわらげたりする治療です。薬物療法には、「化学療法」、「内分泌療法(ホルモン療法)」、「分子標的療法」などの種類があります。
  • 患者の体調や各治療法のスケジュールなどを考慮して、入院期間中に治療する「入院治療」、あるいは、外来で通院しながら治療する「外来治療」を行います。治療後は治療効果を確認しながら、治療の継続や他の治療法の検討、経過観察を行います。
  • 薬物療法には副作用があります。薬により副作用は異なり、アレルギー反応や吐き気、食欲低下、だるさ、口内炎、下痢、脱毛や手足のしびれ、皮膚の異常(色素沈着や乾燥など)などのほか、肝機能障害や腎機能障害、血液の異常(白血球減少や血小板減少、貧血など)などがあります。副作用には個人差があり、患者の体調や食事の内容、他の薬の影響を受けることもあります。

放射線治療

  • 放射線治療は手術と同様、局所に対する治療ですが、手術のように臓器を取り除いたりすることなく、がんの部分に放射線を照射して治療します。放射線を照射しても、痛みや熱を感じることはありません。放射線治療では、がんを標的とし、治療に必要な最低限の周りの正常組織を含めて放射線を照射します。
  • 放射線治療の時間は治療によって変わりますが、概ね 10~30 分で、照射は土日と祝日を除き、毎日行うことが一般的です。ほとんどの患者は、治療前の日常生活を継続しながら、通院で治療を受けています。
  • 放射線治療の副作用には、放射線治療中又は終了直後に起こるもの(急性期)と、終了後半年から数年が経過してから起こるもの(晩期)があります。また、全身的なものと、治療した部位に起こる局所的なものがあります。全身的なものでは、疲労感やだるさ、食欲不振、貧血などのほか、感染や出血をしやすくなるなどがあります。局所的なものでは、照射された部位の皮膚の変化のほか、頭部では脱毛、口腔では口の渇きや味 覚の異常、胸部では咳や息切れ、腹部では軟便や下痢などがあります。晩期の副作用は、二次がんの発生や妊娠・出産への影響などがありますが、放射線量や照射する部位の大きさなどで発生頻度が推定できることから、細心の注意を払って治療計画を立て、副作用が最小限になるよう治療を行うため、重篤な晩期の副作用はごく稀にしかあらわれません。しかし、個人差などにより、副作用が絶対起こらないとは断言できないことから、治療後も定期的に経過観察を行います。

最先端がん治療

高度な医療機器や新薬の開発など、医療は日々進歩しており、がん治療においても新たな治療法の実装が進んでいます。

ロボット支援手術

  • 手術においては、従来の内視鏡手術では容易ではなかった精密な手術に、ロボットを活用する方法(ロボット支援手術)が採用されるようになってきています。
  • ロボット支援手術は、患者の体に開けた小さな創から、専用の内視鏡カメラとアームを挿入して行います。術者は、3Dモニターを見ながら、自らの手を動かしているような感覚で、コンソールを通してアームを操作します。6ロボット支援手術は色々な部位 のがんに用いられるようになっています。
  • ロボット支援手術のメリットは、人間の手では不可能な角度に機器を曲げての執刀が可能であること、傷口が小さいこと等が挙げられます。都立病院でも、駒込病院、多摩総合医療センター、墨東病院、豊島病院などで実施されています。

CAR-T療法

  • CAR-T療法とは、患者自身の免疫細胞(T細胞リンパ球)に遺伝子改変を行い、がん細胞を攻撃させる治療で、平成 31(2019)年に白血病や悪性リンパ腫に保険適用となりました。
  • CAR-T療法により、従来の抗がん剤治療や骨髄移植治療で治らなかった病気でも、治せるようになりましたが、治療を受けてもすべての方に効果があるわけではあり ません。また、治療までに時間がかかることや、症状や体の状態によっては受けられないことなどから、治療が出来る方が限られています。
  • 都立病院では駒込病院が令和2(2020)年3月よりCAR-T療法の提供可能施設となっています。

光免疫療法

  • 光免疫療法とは、光に反応する薬を投与し、薬ががんに十分集まったところでがんに対してレーザー光を当てることで治療する、新しいがん治療法です。日本においては、 「切除不能な局所進行又は局所再発の頭頸部がん」に対する治療として令和2(2020)年9月に承認され、現在は保険診療として治療を受けることが可能です。
  •  光免疫療法用の薬がほとんどくっつかない正常細胞は、レーザー光を当ててもダメージを受けません。また、光免疫療法用の薬自体は細胞にダメージを与えず、使用するレーザー光も人体に害を及ぼさないので、抗がん剤のような治療部位以外での副作用 はなく、患者にやさしいがん治療法と言えます。

粒子線治療

  • 放射線治療の最先端治療として、粒子線治療があります。粒子線治療とは、陽子線や重粒子線の粒子放射線ビームを病巣に照射する放射線治療法の総称です。エックス線による一般的な治療と比較して、がん病巣に合わせて放射線をより集中できる利点があります。9
  • 粒子線治療は保険適用となる疾患が順次拡大されていますが、粒子線の治療施設を整備するためには高額な設備投資が必要であり、装置の運用コストも高いことから、国内で実施可能な施設は限られており、令和5(2023)年 12 月現在、都内では未導入となっています。

ホウ素中性子捕捉療法(BNCT: Boron Neutron Capture Therapy)

  • BNCTは、中性子とホウ素の核反応を利用したもので、正常細胞にほとんど損傷を与えず、がん細胞を選択的に破壊する治療法です。
  • 令和2(2020)年6月から「切除不能な局所進行又は局所再発の頭頸部がん」について保険適用となっています。

出所:東京都保健医療局「都立病院粒子線治療施設整備計画(素案)」(令和5年 12 月)